届いた手紙には sideユネ・バントス
「リーナから手紙だって?」
「えー! おかあさん、なにが書いてあるの?」
見慣れない小綺麗な青年を娘が連れてきたとき、まだ結婚には早いんじゃないかと言いそうになって慌てて口を閉じた。
もともと年の近い少年たちに虐められていた娘は男が苦手だ。だのに、この青年の手を楽しそうに握っているのをみて驚かずにはいられない。
間違っても夫が見ませんようにと願う。血の雨が降りそうだ。
綺麗な花の模様が入った便せん。それだけでも高価なものだというのに、中にある手紙は綺麗な青い字で書かれていた。
このインク、かなり値段がしたんじゃなかろうかと戦々恐々としてしまう。
こんな高価な手紙をもらう人間じゃないんだけど。
「ねー、なにが書いてあるの? ホノのこと、書いてある?」
「ちょいと待ちな」
季節の挨拶から始まり、うちに世話になったことに対して丁寧な感謝がつづられている。ここまではいい。しかし、ちょっと困った人に捕まりそうだから実家に帰ります。ってなに?
いや、あの子が実家に帰れるようになったことを喜ぶべきか?
「あの子、何したの。逃げなきゃいけないほど困った相手ってなによ?」
「いやー・・・ははは」
青年は笑ってごまかすが、あの子の実家って、結構危険な森を抜けないといけない場所にあるはず。そんな場所に逃げ帰るほど困った相手って・・・
「まさか、あの子貴族に狙われてんのかい? 大丈夫なのかい?」
青年はじっと顔を見てきたかと思うと、ふと笑みを浮かべた。
さっきの胡散臭いやつじゃなくて、本当に安心したような笑みだ。
「ご心配ありがとうございます。彼女は今、ベルノーラ商会が全力で守っているので大丈夫ですよ」
「全然大丈夫じゃないだろう! 帰れなかった実家に逃げ帰るほどのことが起きたんじゃないのかい?」
「そうですけど・・・でも、大丈夫。彼女はもう、一人じゃないから」
とても大切そうに語る青年に、ホノが首を傾げた。
「お兄さんも、お姉さんがだいすき?」
「うん、とても大切な人だよ」
愛おしいという気持ちを隠すことなく言い切った青年。
ホノ、あんた勝ち目なさそうよ。
「ホノもだいすきなの! ホノもお手紙かきたい!」
「では、便せんは私が用意しましょう。ベルノーラ商会を通じればすぐにお手紙が届きますよ」
ベルノーラ商会なんて高級店に依頼するなんてとくらっときた。
「私の手紙も同封しますので、書き終えたら教えてくださいね」
「ホノ、字・・・うまくかけない」
「じゃあ、私が教えてあげましょう。昼間はベルノーラ商会に居ますから、いつでも遊びに来てください」
「いいの?」
「ええ、もちろんです」
いいわけがない。ベルノーラ商会に雇ってもらえるってことは、この青年はそれなりに教養があるんだろうけど、そんな人がうちの娘に構っていられるほど暇な店じゃないだろう。
「ではバントス様、本日はこれにて失礼いたします」
深々と頭を下げて出て行った青年を呆然と見送る。
「ホノ、あの男、なんて名前?」
「しらなーい。それよりお手紙みせてー」
うちの子が、実は王族の元近衛騎士を連れてきたことを知ったのは、翌日のことだった。




