星祭りのプレゼントを買いに sideアレクセイ
リーナが、父親にプレゼントを買いたいとわずかばかりの給金を握りしめて言ったのは、星祭りの日の朝だった。
私は護衛とともに、街に慣れていないリーナの教師役として同行することになった。
その途中、心無い老婆に暴言と砂利を投げつけられた。
リーナはこういう扱いに慣れているのだろう。だが慣れてはいけない。彼女はそんな立場の人じゃないし、そもそもこの私の目の前で傷つくなんて許せない。
悔しさを握りしめていると、一人の赤毛の女が突っ込んできた。
「リーナっ」
隠していた短剣を女に構える。近くに潜んでいる護衛たちもいつでも武器を抜けるようにしているはずだ。
「そこまでです。どなたかは存じ上げませんが、うちのリーナに手出ししたらその命、私が貰い受けます」
「ひっ」
でも、そんな私を止めたのは他でもないリーナだった。
「アレク、わたしの知り合いなの」
確かに害意や敵意はないようだが・・・しばらく二人を交互に見て、それから思わず嘆息した。
「・・・申し訳ありませんでした」
「ううん、ありがとうアレク。シシリーさん、こんにちは、ご無沙汰しております」
シシリー・・・?
ああ、トトリという店での一件か。護衛に報告されたことがあったなと思いだす。
「あ。あの、リーナ、さっきのおばあさん、大丈夫だった? どこかに怪我はない? 怖かったでしょう?」
彼女は矢継ぎ早に言葉を重ね、じりじりとリーナに近づいた。
やめろ、これ以上は進むな。
「はい、ありがとうございます。大丈夫です」
「あの、私、止められなくて・・・」
「いいんです。わたし、平気です」
「ごめんなさい、あの夜のことも・・ずっと、ずっと謝りたくてっ」
「・・・驚かせてしまったのは、わたしです」
「違うの! あなたは悪くないのに、あたしが・・・あなたをたくさん、傷付けたの。ごめんなさい、リーナ・・ほんとうに、ごめんなさい」
何度も、何度も謝罪を口にする女に、私が少しだけ力を抜いた時、突然リーナが歩き出した。少し先にたたずんでいた花売りの少女のもとへ向かったようだ。
おびえたような少女の顔が見えたが、二、三言葉を交わすとピンクの花を一輪手に持って戻ってきた。
「勝手にいなくならないで。危ないだろう?」
「お花を買ってきたの」
いや、見ていたけどさ。
「シシリーさん。謝ってくれて、ありがとう。でもどうか、もう気にしないで。それに今日はホシマツリだよ。ね? 笑って?」
リーナは、赤毛にそのピンクの花をそっとさしてやった。
「今日は、お店はやっていますか?」
「う、うん、夕方から開けるよ」
「じゃあ、お父さんといっしょにいきますね」
これでもかと見開かれる瞳。彼女は本当にリーナに謝りたかっただけだったのか・・・
「シシリーさん。ホシマツリの夜は、お願いが叶うのよ」
「いいのかい?」
「うん。おいしいごはん、楽しみにしています」
リーナはそう言って、左手で私の手を取ると、右手を軽く女に振って歩き出した。
「リーナ、あの人を許すの? 嫌な思いをしたんじゃないの?」
しばらくしてそう問えば、リーナがふにゃりと笑った。
「だって、一生懸命謝ってくれたもの」
だからいいの。嬉しかったのと小さな声が続いた。
なんて優しいのだろうか。私なら絶対に許さないのに。
この優しい少女がこれ以上傷つかないように大切に、大切に守ってやりたいと思った。
「それでリーナ、プレゼントは決まったのかい?」
「うーん・・・さっきのお花でけっこう使っちゃったし」
もともとが少なかったからね。花はなくても我慢ができる贅沢な趣向品だから高価だ。親がいない子どもは遠くまで花を摘みに行って売るのだ。
「リーナ、あの子、まだ君を見ているよ」
先ほどの花売りの少女がリーナをじっと見ていたので言えば、彼女はふっと微笑んだ。
「そうだ、いいこと思いついちゃった!」
いいこと?
リーナが再び少女の方へ歩いて行けば、少女は驚いたように目を見開いた。
また二、三言葉を交わすと今度は青い花を持って戻ってきた。
「シシリーさんとお揃いなの!」
「・・・そっか、良かったね」
よく分からないがリーナが嬉しそうならそれでいいだろう。
私はニコニコ笑うリーナに微笑みかけた。




