あとは全て任せてしまおう
「そんな楽しそうなことになっていたなら、俺も呼んでくれれば良かったのに」
今日も今日とて楽しそうにワインを浴びるように飲むスヴェン。
奥さまも手当てと湯あみを終えると、なぜかお気に入りのスヴェンとワインをあけるのだ。
「だめです。あなたの時給高いから。あ、でも伯爵家のお姉さんはクール系美女だったよ」
「へえ。じゃあ今度ご挨拶しようかな」
この男ならタトゥーなんて気にしないだろうな。
「それで、伯爵家は君を助けてくれるの?」
「どこまで効果があるのか未知数」
「大丈夫ですよ、彼らの力は普通の伯爵家よりも強いの。彼らの一族がスタンピードを抑えてきたという実績があるもの。お嫁さんやお婿さんを一人諦めるから、リーナを連れて行かないでって言えばなんとかなるわ」
本当だろうか? 王家のしつこさを見た後だと納得しがたい。
「どうして?」
「今の伯爵夫人が嫁ぐことになったとき、伯爵は実家にお金だけ送り付けて彼女を強引に連れ帰ったの。そのまま五人の子どもが生まれるまで一度も里帰りはないわ。森が怖くて彼女の実家の人々も容易に来られないし」
聞きようによっては誘拐では・・・?
「一時期王都や周辺では、彼らのことが悲劇として流行ったの。今でも劇の演目に使われるくらいよ」
そのわりには、夫婦の仲は悪くなさそうだったけれど。むしろ旦那は嫁の尻にしかれてる感じがしたし。
「噂なんてそんなものよ。実際には彼女が自ら売り込んだの。彼は四人も生まれたから、もう無理をするなと言ったのに、彼女はもっと産んで街を守るんだって言ってね。うちの子が生まれる時と同じ人が産婆をしたから、私もなんどか会いに行ったわ」
季節の便りや贈り物は今でも欠かさずやるのだそうだ。
「お屋敷があそこまで酷いことになっているなんて知らなかった。ここ数年は行かなかったから・・やっぱり、報告ではなく自分の目で確かめなくちゃね」
ふう、と吐息を吐き出す姿のなんとなまめかしいことか。そんな美魔女を見てもなんとも思わないスヴェンは男として大丈夫なのか。
「なにか?」
「イイエナニモ・・・ああ、そうでした、奥さま。以前大旦那さまが連れていらした赤目の異国の方は、今どちらに?」
王都から逃げる前に会ったのが最後だ。もう国に帰ってしまっただろうか。
「この国の各地の神殿を調べると言って、シュオン様をつれて回っているようよ」
「連絡は取れますか?」
「もちろんよ、あなたが彼女に約束したのでしょう? スタンピードについて。ベルノーラも古き友人と、大事なあなたのために手を尽くすわ」
カッコイイ。
「ありがとうございます」
「でも、うちの子たちでは、あまり資料をみてもわからないと思うのよ。その点は指導が必要になるわ」
「かまいません。どれだけ小さくても、面倒でも、やっていただけるのであれば」
「わかったわ」
統計を取るのに必要なことはなんだろうと考えたとき、誰もが情報を当てはめるだけで進んでいくような枠組みが必要だと思った。
これからその準備を始めようとしているところだ。
スタンピードが起こるタイミングを突き止めることができれば、今まで以上に避難は早くなり、討伐も無駄なく行えるはずだ。
すぐに全てを解明できなくても、例えば何かしらの病気が流行りそうな時や、ひどい天気になりそうな時を見つけていけば、スタンピード以外でも役に立つ情報になる。
伯爵家を建て直しつつ、ひいては我が身を守る武器になる情報。
「まずは、各地の情報を集めましょう。それから、文字に強いものを選出してあるわ。あなたが枠組みを作ってくれたらすぐにでも開始できる」
今は情報を待ちつつ枠組みを完成させる。どの情報を入れ込むか。できれば全部が見たいけれど、他人の手がかかわるだけに、中には手を抜くものもいるだろう。
それでもこの行動は無駄にはしない。
「はい、奥さま」
わたしは決意を新たに頷いた。




