いろんな意味で規格外
セレニアと名乗る女性は、静かに窓の外を見下ろしていた。
戦闘はまだ続いているようで、時折激しい爆発音がする。
大旦那さまたち、本当に大丈夫なんだろうか。いろんな意味で。
「お前は、あのベルノーラが連れてきたのね」
「お初にお目にかかります、伯爵夫人。わたくしはベルノーラ商会より参りました、リーナと申します」
「お前の名前などいらないわ」
ああそうですか。お姉さんをちらと見上げると、興味がなさそうにわたしを見ている。見ていないでどうにかしてよと思ったけれど、助けは期待できない。
「夫人、なぜ力の強さをお求めに?」
「この土地で生き残るためよ。私はもう息子を二人も失ったわ」
それはどれほどの絶望だろうか。花すら置かれない寂しい館が、彼らの心を現しているようだった。
「スタンピードの件は聞き及んでおります」
「そうね、街の一部の者たちはお前も魔物の仲間だと信じたいようよ」
「夫人もわたしが魔物に見えますか?」
「お前ごときが魔物なら、私たちはあの子たちを失わずに済んだでしょうね」
なかなかに辛辣・・いや、これが貴族か。
「そうですね。自慢ではありませんが、わたしは冒険者ギルドの地下訓練場で小さな少年たちに負けました。武器を持つのもダメだ、危ないって言われています。なんならギルドで登録するのも一苦労でした。」
主にネッドのせいで。
「私は弱い人間は嫌いよ」
「武力のみを求めていらっしゃるのであれば、わたしはここから出ていきましょう。この街を捨て、他に移ります。家族も連れていきます。次に起こるスタンピードでは、きっとたくさんの被害がでるでしょうね。わたしがこの街から出ていけば」
本当にそうなるかはわからないけれど、さっき大旦那さまがそう言ったし。
「お前、まさか私を脅しているの?」
「いえ、ただ、この伯爵家にはまだ三人のお子がいらっしゃる。きっと次も乗り越えられるでしょう。その更に次までに新たに子を設ければよいのです」
まるで呪いみたいだ。そう思いながら投げやりに言えば、いつの間に目の前に来ていたのか、夫人がわたしに手をあげ、次の瞬間には床に転がった。
彼女が握っていた扇子で、思い切り頬を叩かれたらしい。
叩いた本人は涼しい顔でわたしを見下している。
「夫人だって、そうやって嫁いでこられたのでしょう」
「私は望んでここに来た。お前ごときが知ったような口をきくでない」
とりあえず上体を起こすと、もう一発、今度は反対側の頬を叩かれた。口の中いっぱいに広がる鉄を、思わず吐き出す。
思えば最近物騒なことばかりだ。あの雪景色が懐かしい。あの雪の中にいた頃が一番平和だったんじゃなかろうか。王都なんて行くもんじゃない。
どうでもいいことを考えていたら、起き上がった瞬間三発目が飛んできた。
頭がぐらぐらする。口の中が気持ち悪い。痛いし辛い。
それでも、私はまた体を起こした。四発目はなかった。
「出ておいき、私は弱い者が嫌いなの」
「あなたの息子を思い出すからですか」
殴られはしなかったが、頭を掴まれた。
「ぐっ」
細い腕のどこにそんな力があるのかと驚くほどなのに、彼女は涼しい顔でわたしの体を腕一本で持ち上げると、ぱっと手を離した。そのまま床に落ちそうになった瞬間、次に掴まれたのはわたしの首だった。




