セクハラやめてもらっていいですかね
「おやめ、下がりなさい。ネッド」
大旦那さまが呆れたように彼の襟首をつかみ強引に止めたけれど、ネッドは気に入らないというように怒鳴った。
「うちのお嬢さんはささやかだから可愛いんじゃないですか! それを馬鹿にするなんて!」
お前も大概だからな、覚えてろネッド、と睨みつけると失言に気付いたらしい彼がそっと口元を手で覆った。
「女性の容姿を貶すなど言語道断ですわ」
「俺はちっさいおっぱいに興味はない!」
「わたくしも、あなたのような品のない方はご免こうむりますわ」
馬鹿にしたよう鼻で笑う男に、極上の笑みを差し上げると、何を思ったのか二歩下がった。
「・・・言い過ぎた」
「わかればよろしいのです。わたくしは今、伯爵とお話をしておりますの。少々下がっていただきたいですわ」
「・・・」
警戒する猫のように後ろ足で下がり、そっと若い女性の後ろに隠れた。
「ねえちゃん、こいつ絶対オカンより怖いぞ」
「お前はもう黙れ。あとで母さんに叱られるぞ」
本当に貴族なのかと真剣に問いたい。なんだか口が悪くないか?
「彼ら、いつ死んでもいいように社交はほぼないから外聞もないんだ」
ぼそっと呟いた大旦那さま。呆れたような顔をしているが、どう見たって大旦那さまのほうが伯爵っぽい。
うおっほん! とわざとらしい咳で注目を集めた伯爵は、場を取り戻すようにわたしを見据えた。
「して、何を願う。どうせ助けよとでもいうのだろう」
「彼女はスタンピードに対して有効だ。君も報告を受けているんだろう? 彼女がこの街に来てからコソコソ情報を集めていたものね」
え、何それ知らないんだけど!?
「この街には彼女が必要だって王族に一筆書いてくれないかな?」
「断る」
にべもない。当然かと、どこかホッとしたわたしがいた。
このよくわからない伯爵が後ろ盾になったところで、王族が簡単にあきらめるのであれば、今こんな事態になっていない。
「頼むよ、ハリエット」
困ったように笑う大旦那さま。頼むと言いながら小声で「総員戦闘準備」って言うのやめてもらっていいですか、怖いんですが。
そして伯爵はもう一度繰り返した。
「断る」
最初に動いたのはなんと奥さまだった。素早く駆け出すと剣を持った若い男に突進していく。伯爵のもう一人の息子だ。男のほうも顔色一つ変えずに受け止めると、奥さまの後ろから黒服が三人飛び出した。
これぞ数の暴力って感じだったのに、男は難なく彼らをあしらう。
え、まって。奥さまのお腹すごい勢いで蹴られて吹っ飛んだんですけど!?
「あれはよろしいので?」
ちらりと大旦那さまを見上げると、何が? と返された。いや、何がじゃねえよ。あなたの奥さん吹っ飛びましたが!?
少し離れた場所ではネッドが先ほどの口の悪い斧の男に突進していった。こちらは互角に遣り合えているのか、刃物がぶつかる音が耳に痛い。
「じゃあ、私は彼とやろうかね。君は彼女を頼むね」
はて、彼女とはと顔を上げると、タトゥーを全身に入れたお姉さん。
「無理です、コンマ一秒で死ねます」
「あはは、大丈夫。君が死んだらネッドが彼女を殺すから」
それは全然大丈夫じゃないやつ!
止める間もなく大旦那さまは涼しい表情で伯爵のもとへ歩いて行った。
仕方なく彼女に目をやると、周りの戦闘なんて一切気にしていない静かな瞳があった。
「あなたも武器をかまえなさい」
「以前冒険者ギルドの地下で訓練したら、才能がないことが判明しましたので持ち合わせておりません」
あれ、誰かが武器を落としたような鈍い音がしたぞ。気のせいかな?




