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これは優しいお話です  作者: aー
帰還
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戦争ではありません、ちょっと会いに行くだけなんです

 家族会議というには少々物騒な気配を感じる現在。

 広間に集められた使用人たちと、腕を組んで真剣な表情を浮かべる大旦那さま。

 にこにこと笑みを浮かべているわりには腰に刺したサーベルが恐ろしい奥さま。ちょっと待って、なんでサーベル?

 この国の女性は武器を持って戦うことが当然なわけ?

 しかも黒服の人たち、今日は完全に姿を見せているし。

「緊急案件だ。本来ならば昨日話し合うはずだったが、うちの馬鹿がやらかしたせいで一日遅れてしまった。皆知っているように、リーナを狙うのは王家だ。今朝もリーナを寄こせと鷹便が届いた。我が屋敷では守り切れないとのことだ」

 まあ逃げ出した前科がありますからね。というか、みんなの目が怖いんだけどナニコレ。

「大旦那さま、わたしのせいで大変申し訳ございません。もしもベルノーラ商会ひいては皆さまにご迷惑をおかけするならば、わたしを差し出してください」

「リーナ。森を抜けるまでにまだ時間がかかる。君のおかげで奇跡的に魔物に遭遇しないだけで、あそこは本来危険な場所だ。人数も多いはずだ。たどり着くまでには一月ほど猶予があるだろう。スタンピードも今回の規模を考えると小さいものと言える。これは前回とはかなり大きな違いなんだ」

 なぜここでスタンピード?

「そうなのですか?」

「おそらく君の気配かなにか残っていたのだろう。だからこそアーシェは王都で何日も滞在し、原因を探っていた。明らかに規模が小さかったからだ。でなければこの程度の被害で済むわけがない。スタンピードが起こると、最悪街一つ、一昼夜もかからず滅ぶ」

 前回はその手前まで行ったというのだろうか。私は街の中心から高台ぐらいしか移動範囲がないが、本来はとても大きな街なのだ。

 でなければ村という扱いになる。

 街として認められるためには数万人の人口を必要としており、町よりも人頭税はあがる。ただし治安を守るための憲兵や、場所によっては私兵を持つ領主もいるとか。平和を必ず守ってくれるからみんなついてくるんだって。

「このゲベートは、我がベルノーラと領主一族が守ってきたという自負がある。それを、王都のひよっこ共が好き勝手に抜かすのは我慢ならないね」

「領主一族は、お会いしたことがないのですが、普段はこのあたりに居ないのですか?」

「彼らは街の東側にいるよ、中央付近はギルドがあるから元気な子も多いしね。毎回スタンピードが起こる場所近くに居を構えているんだ。何かあったら真っ先にスタンピードに対応するためにね」

 そうして、毎回スタンピードが起こるたびに家族を一人、二人と減らしていくのだそうだ。遺体が見つかることはほぼなく、運が良ければ腕の一本ぐらいは見つかるらしい。言葉通り死に物狂いで戦うのだ。

 スタンピードが起こると、街の人を物理的に守るのが領主一族、金銭的に守るのがベルノーラ商会らしい。彼らがお金を稼ぐのは、いざという時の支援にするため。

 たとえ美味しくない黒パンだったとしても、一つあれば一日生きられる。生きてさえいれば明日を迎えられる。人が生きてくれれば街は復興できる。

「今回の件、変態・・・・もとい王子たちの暴走が一番の原因だ。言葉も通じない連中と渡り合うのは、高位貴族に任せるに限るよ。もちろん、こちらもあらゆる手を使うけれどね」

 なるほど。

「リーナ。疲れているところ悪いが、今日はその領主一族と会ってほしい。面会の申し出はすでに済ませている。午後に来るよう通達があった」

「わかりました」

「少々変わった方たちだけれど、小さい子を虐めるような下種ではないから安心しなさい」

 ベルノーラに変わった人って言われるのって、そうとうヤバい人なんじゃ・・・

「ところで大旦那さま。なぜ武器をお持ちなのですか」

「もちろん、領主館に行くためだよ?」

 意味が分からずそっとクマもとい父を見上げる。

 目が合うとわずかに微笑むが、そっと視線をそらされた。

「領主一族のお話ははじめて伺いましたが、どういう意味で変わっているのでしょうか?」

「こんな土地を収める方たちだからね、力こそすべて。強いが正義の脳筋一族だよ。一番の得意武器はそれぞれ違って、現領主は大剣使いだし、前領主は弓が上手い。まあ彼はもう引退したから今回は出てこないだろう。奥方は鞭、二人いるご子息はそれぞれ剣と斧。ご息女は槍の使い手だ」

 剣は剣でも魔法剣なのだとか、適性がある騎士だけが使えるらしい。そういやここ、ファンタジー世界だったよ。

 よっぽどのことがない限り人には向けないらしいけれど、なぜそんな説明が始まるのだろうか。

 嫌な予感がして、今度はシシリーを見上げる。昨日より顔色が良くなったようで良かった。

「あたしも噂しかしらないけどね、領主様に会いたきゃ強い人を連れていくしかないんだって。弱い人が嫌いだって聞いたことがあるよ」

「つまり、わたしは会えませんね!」

 よしベッドに戻ろう。物騒な人にはかかわらないようにお昼寝しよう!

「大丈夫、そのための私たちだ」

 穏やかな声には似合わない剣呑な瞳。

「私もいい加減、彼から逃げるのはやめて向き合おうと思うんだ。君が、家族と向き合うと決めたのだからね。私も友人と、向き合わなければ」

 良い事言ってるはずなのに殺気が駄々洩れなのは何でですか。奥さまの笑みも凄みが増していて怖い。

「それではリーナさん。領主様にお会いするのに相応しいドレスに着替えませんと」

 そう言って家令が持ってきたのは、女性騎士の制服。その子どもサイズ。いや、いくら袖口にレースを付けたからって、明らかにおかしくないですか!?

 ドレスって言ったじゃん!

「この布は特殊なものでできており、ちょっとやそっとでは怪我をしません。これでもまだ心配ですが、まあ旦那様たちがお守りくださいますでしょう。黒服たちもおりますので、存分に盾にして下さいませ」

 一人混乱するわたしを置いて、彼らは今から戦争でも行くのかっていう顔で作戦を立てていた。

 爆弾で門を破壊する? 更に黒服たちが上から爆弾を降らせる? 井戸に即効性の毒(今回は下剤で対応するらしい。今回はってなに?)を入れる? 一番単純な斧使いの次男をまず殺って、次に女を狙う? 指示出しようの特殊な鳥も用意したって・・・・

「真剣に問いますが、何をしに行くのですか」

「だから、領主に会うんだよ?」

「殺しに行くのですか」

「大丈夫、死なない程度に収めるから。たまにはベルノーラの力を見せつけないと、また無理難題を押し付けてくるしね」

 笑顔で言うことだろうか。

「それに、いい加減彼にも目覚めてもらわないと」

 その言葉の意味を知るのは、あと数時間先のこと。


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