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これは優しいお話です  作者: aー
帰還
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言葉をどこかに置き忘れてしまった

 感動の再会とか、あればいいなと思っていた。

 顔を見た瞬間、言葉が出なくてどうすればいいかわからなかった。

 足を引きずるように前にだして両手を伸ばしてきたラティーフ。

 何か言わないとと口を開くが、言葉をどこかに置き忘れてしまった。

 そうこうしているうちに抱き上げられ、どんどんラティーフは歩いていく。

 ・・・・・ん?

 なんか変だなって思っていたら、ぽかんとしたネッドやフェリコスと目が合った。

 あれれ?

 痛そうに足を引きずっているのに、スピードは結構ある。

 そのまま新しく用意されたベルノーラ商会の馬車に詰め込まれた。

「ちょっとまてラティーフ!」

 慌てて手を伸ばすアーシェをちらりと見たが、大きな音を立ててドアが閉まり、そのまま発車したようで車内が揺れた。

「わっ」

 彼はむすっとした顔のままわたしを抱きかかえなおすと、睨みつけるように分厚い窓の外を見ていた。

 えーと。なんか知らんが父親(義理だけど)に拉致された?

 しかもちらっとしか見えなかったけど、馬車を運転しているのはグリノラと呼ばれる男だった。前にわたしの悪口を言ってラティーフに怒られた人だ。どうしてこの人がベルノーラ商会の馬車を運転しているんだろう?

 じっとラティーフを見上げると、空色の瞳がわたしを見下ろした。

 まるで今にも泣きだしそうな曇った空の色だ。

 ぽつ、ぽつりと雨のような涙が落ちてくる。

「帰ってくるのが遅い」

 そうか、ちゃんと待っててくれたんだね。

「うん。ただいま、おとうさん」

 ラティーフは声を押し殺して泣いた。その間、私を強く抱きしめたままで。


 屍が二体並んだ居間で、私は大旦那さまと奥さまに対面していた。

 屍はアーシェとネッドだ。どこかから馬を引っ張ってきて、そのまま全力で走らせてついてきたらしい。ネッドをここまで疲れさせるなんて、父さん、やるわね。

「おかえりなさい、リーナちゃん。あなたの行動力には目を見張るものがありますね」

 わたしの首に巻き付いていた獣を気に入ったようで、さっそく腕に抱いている。獣のほうも解けたアイスみたいに伸びきって、放漫な大人の女性を堪能していた。

 わたしの時と全然違うんですけど? まさか雄だったのかな?

「遅くなりました、ご無沙汰しております」

微笑む奥さま。わたしは今、大きなクマに抱きかかえられているにも関わらず誰も突っ込んでくれない・・・

「おとーさん、足は痛くないの?」

「お前が帰ってきたから、もう痛くない」

 いや嘘やん。家令が慌てて医者の手配に行きましたやん。

「そっかー」

 これは突っ込んではいけない。

「ところでリーナ、王都ではすぐに拾ってやれなくてすまなかったね。王族があそこまでしつこいとは・・ああ、そうだ。君の身代わりをしたテラにはちゃんとご褒美をあげたからね」

「ありがとうございます。大旦那さま」

「ところでネッド、お前はあのテラに何をしたんだい? 精神的苦痛を味わったのでお給金に手当てを上乗せしてくださいと連絡が来たが?」

 想像できる・・・

「大旦那様、俺は普段お嬢さんにしていることの半分もできませんでしたよ。あの小娘が苦痛だったのは修業が足りないからでしょう」

 カーペットに寝ころんだままで言う言葉だろうか。

「それにしても、いきなりお嬢さんを拉致するなんて、それでもあなたは父親ですか」

「うるさい」

「すみませんでした」

 たった一言でネッドが謝った!

 すごいよ、うちの父さん。

「明日は大雨だわ」

「お嬢さん、なんか失礼なことを考えていますね?」

「そんなことはないけれど、あなた随分と疲れているわね」

「森の中で引きずられたんでね。背中が痛いんですよ」

 そういえばそんなこともあったなと思っていると、おもむろにクマが立ち上がり居間を出ていく。

「どこにいくの?」

「家族の所だ」

 そのままむっつりと怒ったような顔で歩き続ける父。これは泣き出す前兆な気がする。

 天井を誰かが走ったから、多分護衛が何人かついているのだろう。わざと気配を出すのは、おそらくこの人のため。

「だいじょうぶよ」

 この人はわたしを傷つけたりできない。

 ぴたりと、足音が止まった。


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