これだけ離れたのは初めてだった sideネッド
サブタイトル「通報案件」
こちらのお話は読まなくても本編に影響はありません。
※ネッドが本当に残念な人になっています。苦手な人は無理せずお読みにならないでください。
お嬢さんをなんとか王都から脱出させた俺は、身代わりの娘テラを連れて堂々と王都を脱出した。
深めにフードを隠した少女は、背丈もほぼ変わらない。簡単に数名の騎士が釣れたが、なるべく距離を稼ぎたくて馬車を走らせた。
彼女とは似ても似つかない地味な少女。俺が何かをするたびに警戒する猫のような目で睨みつけてくるが知ったことか。
俺だってお嬢さんのためでなけりゃあ、あんたをエスコートしたりしない。
わざわざ見せつけるかのように馬車の外ではかいがいしく世話をし、馬車に戻るとテラはすみっこに身を潜めた。ますます猫のようだ。
お嬢さんが見たら喜ぶかもしれない。
「なんですか」
「別に」
「気持ち悪いんで見ないでください」
こいつは出会って数時間で遠慮というものを脱ぎ捨てたらしい。
まあどうでもいいが。
「護衛対象から目を離さないのは当然の義務だ。お前は黙って守られていればいい」
「だからって、人がおしっこするときまで付いてくる変態がいますか!?」
お嬢さんはもうあきらめてくれたが。
「尿を足している時は注意力散漫になり、危険だ。目を離さないのは当然だろう。安心しろ、お前に興味があるわけではない」
「いやいやいや、普通の道ですよね、ここはどっかの森かよ! いくらなんでもトイレの中まで入ってこようとしないでよ!?」
声がうるさい。
「建物の外に騎士が近寄ってきたからだ。お前が騒いだから偽物と気付かれた可能性がある」
「むしろ本物は許すわけ!? トイレの中まで護衛を!?」
「お嬢さん相手にするわけないだろうが。彼女は優秀な人間だ。お前と違って逃げる場所の確保も自分でできる。お前ほど手はかからない」
だから少し寂しいのだが。
ガタガタ揺れる馬車に沈黙が下りたが、テラはしばらく俺を睨んだ。
「じゃあ、ちょっと買い物するときに手をつないだり、私を抱き上げたり、頭ぽんぽんしたり、食事の時あんたが食べさせるのは、私だからって言いたいの」
「いや、それは普段からしている。普段していることをしないのは不信感を持たれるからな。お嬢さんじゃないので、俺もとても残念に思っている」
お嬢さん相手なら、たとえ料理がカエルの姿焼きだろうが何だろうが喜んで食べさせるのだが、こいつ相手では退屈だ。
何度顔に出そうになったことか。
勝気そうな目で睨んでくる少女相手にニコニコ笑うとか、拷問かよ。
「あんた、普段からそうなの・・・むしろよくお嬢様は許すわね」
「お嬢さんは寛大なんだ。そして俺の未来の嫁さん候補だからな。大事にするのは当然だ」
「あんた、お嬢様はまだ十一じゃなかった? 私より三つも下よね?」
お前の年齢なんか知るか。
「それがどうした?」
「こんの変態! あんた、そんなちっさい子にやらしいことしてんじゃないでしょうね!?」
「ご両親の許可をいただくまではしないさ。それに、お嬢さんは俺の気持ちを知ってる」
「ちょっと誰かこの変態を憲兵に突き出しなさいよ!?」
「憲兵ごとき、俺がやられるわけがないだろう。馬鹿かお前は」
「いやあああっ、はやくこの馬車からおろしてよー!」
本当にうるさい娘だ。
ああ、はやくお嬢さんに会いたい。
そんなことを毎日繰り返しながら、俺はエタンセルまでの道を急がせたのだった。




