臨時バイトを勝ち取ったはずなのに敗北感が半端ない sideテラ
こちらのお話は読まなくても本編に影響はありません。
雲の上の存在である大旦那様が臨時バイトを募集していると聞いて、いの一番に立候補した。これはボーナスのチャンスだ!
私が立候補した時にはすでに王都周辺で三人が立候補した後だったらしい。
内容は選ばれた人にしか話せないということだった。護衛がつくので万が一はないらしいが、店長はちょっと心配そうだった。
なんせ募集内容が、背の低い若い女だからだ。それ以外がないので、どういう基準で選ばれるのかは不明だった。王都で活躍してる店子が選ぶらしいが、その人は女性にしては肩までの短い髪でニコニコ笑っていた。
「ではこれを着てください」
「はい」
私は手渡された上質なローブを身にまとい、鏡の前で経った。
「年齢は十四か・・・身長も問題ないわね。うん、勝気そうな瞳が素敵よ」
「ありがとうございます!」
これはもしかして、誰かのフリをするのかしら?
よくわからないけど、ちょっと面白そう。それに私はお金が大好きだ。きっと選ばれてみせる。
選ばれてあの変態に会うまでは、そう強く思っていた。
「はあ」
初対面で思い切りため息をつかれたのは初めてだった。お店には時々失礼なお客がくるけれど、ベルノーラ商会は高級店だから、ここまで無礼極まる野郎はなかなかいない。
「背丈が一番似ていると言いませんでしたか?」
「似ているわ。立候補した中ではこの子が一番よ。年齢も一番近いし、ぱっちりした瞳も可愛いと思うわ」
「身長は二寸(六センチ)も違うし、お嬢さんの瞳は知的なんです。こんなに生意気そうな色や雰囲気はありませんよ。それになんです、ずっと口を開けてアホな子じゃないですか。ただのガキに務まるとでも?」
え、まって。身長って見ただけでわかるの?
「でもネッド、あなた理想が高すぎるわ。ローブをかぶっていればいくらでも誤魔化せる範囲よ。それに、背が多少高く見えたって、それっぽいブーツを履かせればいいのだわ」
「俺のお嬢さんはまだ十一ですよ。こいつはどうみたってそれ以上だ」
俺のって何、私いったい何をさせられるわけ?
「あなたのではありませんよ、ネッドさん。立場を忘れないように」
「これは失礼した。だが事実だ」
ベルノーラ商会の馬車でやってきた背の高い男が、私を見下しながら言った。
「まあ呆れた。あなたね、今の発言を大旦那様がお聞きになったら明日には運河に遺体で浮かぶわよ。だいたい、リーナさんは皆のものです。独り占めなんて最低だわ」
いや何いってんの、このおねーさんも。
呆然とする私と店長を無視して、こいつらはこのあともしばらく続けたのだった。
四姉妹の三番目、上二人はすでに嫁いでいるが、まだ下の妹は十歳になったばかり。
私と少し歳が離れているせいか、すごく甘えてくれるのが可愛い。
でも女の子ばかりの家はお金がいくらあっても足りないから、私は二年前から行儀見習いを兼ねてベルノーラ商会で雑務をさせてもらっていた。
うちは貴族じゃないけど、女の子が結婚するのにはお金がかかるものだ。どこかいいところに貰ってもらうためには相当のお金がいるのだ。
あの子がいつかお嫁さんになるときは、きっと素敵なドレスを着せてあげたい。
ついでに自分も着たい。だから臨時バイトに飛びついたのだ。
リーナという少女が、とても頭のいい女の子で、姿絵も売られるくらい可愛い子だっていうのはわかる。私だって店舗でそれを見たことがあるもの。
今回の臨時バイトは、その少女になり切って旅をすることらしい。
食事つき、豪華な宿つき、護衛付き。給金も悪くない。
けれどどうしてだろう、私は大きなミスをした気分だ。
注文をとり間違えて損失を出したとき以上に心臓がバクバクしている。
もう嫌な予感しかしない。
「あの、もしかしてこのお兄さんと旅をするんですか?」
「ええそうよ。彼はネッドというの。とても優秀で・・・」
彼女は少し横の男を見て、それから小さく息を吐きだした。
「ちょっと小さい子が好きな変態さんなの。でも大丈夫。あなたは守備範囲外だし、彼は特定の相手にしか興味がないから。仕事仲間を殺したりはしないはずだから安心してね」
普段は大旦那様のお屋敷で護衛をしている元暗殺者なのよ。とか、そんな情報聞いてない。
安心できる要素が一つもない。ベルノーラ商会、どうなってんのよ・・・
「安心しろ、俺はお嬢さん一筋だ。お前のような貧弱なだけの女に興味はない」
そういえば、いつも母さんが言ってた。
あんたは落ち着きがなくて考えずに行動するところがあるから、いつか大変なことになるよと。
全くその通りだよ。
とりあえず、さっさと仕事を完遂させようと思っていたら、偽物はあえてゆっくり敵に見せつけつつ行くに決まってるだろうがと馬車に押し込まれた。
安全、保障するって約束じゃなかったですか?




