順調な旅はすぐに終わってしまう
「ユーゴさん、このルートを選んだのはなぜ?」
見慣れない場所ばかり進むことに不安を覚えたわたしは、なんとなく聞いてみた。
「これらの道は、以前お嬢さんがお通りにならなかった道です。わかりやすく言えば、遠回りなのです。選んだ理由は、神殿との関りが薄い町が多い事と、ネッドさんがこちらのルートのほうが早いとおっしゃっていたそうです」
それはきっと、わたしが居るからだ。わたしが居れば魔物に襲われることはない。
たとえ遠回りでも、ネッドに会える時期は重なることだろう。
「わかりました」
ユーゴたちはわずかに頷いて、それから申し訳なさそうな顔をした。
「我々ではご不安召されるのは致し方ありませんが、どうぞ信じてください。必ずお守りいたします」
なんかいちいち重い・・・
「大旦那さまがお選びになった方です。信じない理由がありません。最後までお願いしますね」
「お任せくださいませ」
そんな会話をしつつ先を急いだ。いくつかの村を超えてたどり着いたのは、輝くという意味をもつ街エタンセル。久々に到着した街には、懐かしい顔がそろっていた。
「ようリーナ!」
「リーナ、大きくなって」
フェリコスとアレグリだ。この世界で最初に出会った冒険者。ラティーフの友人。わたしと一緒に森を抜けてくれた人。
フェリコスはしわくちゃな顔をしているけれど、ラティーフの二つ年下。老け顔が悩みだって聞いたことがある。
アレグリは楽しいことが大好き。よく酒場で飲みすぎて泥酔しては箒で叩き出されるらしい。毎朝のように新しい傷を作る男。
「二人とも!」
二人はわたしにかけより、ぎゅうっと抱きしめてくれた。
「よかった。お前、変質者に捕まりそうになったんだって?」
「心配してたんだぞ!」
泣きながら、なんども良かった、良かったと言う二人に胸が熱くなる。
わたしはどうして忘れていたんだろう。こうして無条件に信じてくれる人だっていたのに。
「お前と最初にあったのも、この辺だったよな」
「え?」
そうなの?
「俺たちゃゲベートに帰る途中でお前と会ったんだよ。森に入って四日目ぐらいか。エタンセルに引き戻ったほうが良いのは分かってたんだが、ラティーフがこのまま行こうって言ったんだ」
その距離ならエタンセルのほうがより安全だったはず。かかる日数も全然違うのだから。
「ラティーフはな、最初からお前のことを離したくなったみたいだ。俺が拾ったんだから俺が面倒みるってな。エタンセルの孤児院は財政難で、あんま環境が良くないしな」
そうだったんだ。
「そっか」
そう、ラティーフは最初からわたしに優しかった。
「あいつ、今ちょっとダメになっててな。でもお前が帰ってくるかもしれないってんで、ようやく覚悟を決めやがった」
「覚悟?」
「あいつの足じゃあ、もう冒険者には戻れない。だが働いて食い扶持稼ぐことならできる。嫁さんと子ども二人を養わないといけないからな」
「え、また子ども生まれたの!?」
何故か遠慮なく頭を叩かれた。
「痛いよ!」
「あほか! お前と赤ん坊だ!」
二人同時に怒鳴ることないじゃん!
「・・・でも、わたしは」
本当の名前も、本当の年齢も、この世界の人間じゃないことも、全部黙っていなくなった。ゲベートに居たくなくて逃げたんだ。
「たくっ、無駄に行動力ある子どもだとは思っていたが、ここまで盛大な家出かましやがって! 帰ったら説教だからな!」
「お前の嫌いな人参いっぱい食わせるからな!」
人参が嫌いなのはあなたでしょ、アレグリ・・・
「うん。お説教、ちゃんと受けるよ。今度はもう逃げないよ」
向き合うって決めたのだから。
その後、一台の馬車がわたしたちの傍で停まった。中から出てきた人物に驚く。
「ネッド!」
「お嬢さん、こんにちは。元気でしたか」
爽やかな好青年に変装しているネッドが、見知らぬ少女を連れて降りてきたのだった。




