表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これは優しいお話です  作者: aー
   二度目の王都
193/320

麻袋で運ばれるのは慣れない

 うえぇっとえずくわたしを放置して、スヴェンは白い獣をお手玉みたいに投げる。

 麻袋に入った私は、前後左右を失って運ばれた。

 いやもう本当に、二度と嫌だわ。

 一体どこをどう通ってきたのか、麻袋にはたくさんの枝や葉がついて、所々土がついている。

 おそらく関所を通るときなんて、モノみたいに放り投げられた。叫ばなかったわたし、偉い。口の中を切ったので悶絶していたということもある。

「スヴェンのばか」

「無事に関所を抜けたし、なんなら予定よりも進んだよ。どうして褒めてくれないんだ?」

 絶賛体調不良のわたしは、ちょっと彼にイラっとした。

 なんせ彼はこれでもかと楽しそうに串焼きを食べている。どこで手に入れたのか、わたしにも差し出してくれたが、今食べたら確実に吐く。

「とりあえずしばらく休ませて」

「いいよ、勝手に運ぶから。もう一度入る? もっと進めるよ」

「やめて、物理的に死ぬ」

「ブツリテキ?」

「とにかく嫌」

「そっか、じゃあ俺の背中にのって」

 軽々とわたしを背負うと彼はサクサク歩き出した。白い獣もわたしを慰めるように首元にそっと寄り添ってくれた。

「目立たないかな?」

「小さい子どもをこうやって運ぶことは珍しくないんだ。関所は抜けたから逆にみんな俺たちを安全な存在だと信じるだろう」

 そんなものか。

 流れゆく景色をぼんやり眺めていたら、ふと見覚えのある制服が見えた。商会のものだ。

 心配そうな顔でわたしを見つめる数人の大人たち。

「こんなところで待ってたら捕まるよ?」

「我々の命など惜しくはありません。それよりもお嬢さん、大丈夫ですか? お迎えが遅くなり申し訳ございません」

 一番年かさのオジサンが労わるようにわたしの背中をさする。ああそこ、もっとやって。

 前後に振られた胃が休まっていくようだ。

 背中がポカポカして暖かい。

「約束通り、最後まで護衛するから」

「よろしくお願いいたします」

 スヴェンは彼らの前を通る時もわたしを離そうとはしなかった。

 いくら関所を通ったからって、すぐに安全であるわけでもなく。いつでも走り出せるようにしていたいんだって。

 しばらくして商会の馬車が停まっていて、それに乗り込む。スヴェンは素早く周囲を確認して、何を思ったのか一度外に出て馬車の屋根の上に上がった。

「監視がついているかもしれないから、こっちにいるよ。気にせず進んで」

 下手に悪目立ちすると思ってドン引きしたのはわたしだけで、他の人たちは安心したようにわずかに笑みを浮かべて頷いていた。

 なにこれ、そんなに危険なの・・・?

 商会の馬車は内部がとても豪華だ。ふかふかのソファーに暖かい毛布、飲み物まで置いてある。本来は六人乗りなんだけど、今はわたしとオジサンと、それから少し若い男の人だけが乗っていた。他にも男の人と女の人が一人ずついるが、彼らは馬で移動するからと外に出てしまった。

「彼らは冒険者です。信用のできる方ですのでご安心ください。まずは手当てをいたしましょう」

「頼みます。ネッドは?」

「ネッドさんは別のルートを通っております。囮としてお役目を果たしておりますよ」

 ネッドなら大丈夫だろうが、どんな無茶もしそうだ。

 オジサンはユーゴと名乗った。王都から少し離れた街の商会で商会長をしているらしい。支店長みたいな立場だ。

 わたしの上着を丁寧に脱がし、頭から足先まで真剣に見ていく。必要な道具を取り出してことさら丁寧に傷の手当てをしてくれた。

 悲し気に瞳を揺らしているが、この傷のほとんどはスヴェンのせいだ。

「沁みませんか?」

「だいじょぶです。ありがとう」

 手当てを終えると、若いほうが冷たいジュースを出してくれた。名前はユージルというらしい。ユーゴの末の息子だとか。

「僕は六人兄弟の末っ子でね、上は全員兄なんだ。兄たちは冒険者になったり、商会で働いたりしているよ」

 男が六人もいたらさぞかし家の中は大変だろう。

「私はずっと娘が欲しかったのです。子どもたちが成長するたびに壁に穴が開いて、なんとみすぼらしい家になっていくことか・・・」

 とにかく激しい兄弟喧嘩の日々らしい。大人になって落ち着くかと思いきや、武器を持ち出しての喧嘩も勃発するらしく、もっとも大人しい末っ子のユージルが家を継ぐことになったのだそうだ。

「兄さんたちは家を継ぎたくなくて、わざと家を壊すんだ。自分たちは落ち着きもなく人を率いることなんて到底できない小物だって思わせてるんだよ」

 なんてこっそり教えてくれた。本当は毎晩一緒に飲みに行くほど仲がいいらしい。父親もわかってはいるが、やはり不安が残るため末の息子を後任に選んだそうだ。

 馬車はゆっくりと進んでいき、夜にはとある村についた。村と言っても人口四千人の大きな村だ。あと千人集まれば町になるが、人頭税が高くなるため、村人はこれ以上増えないでほしいと願っているらしい。

 村には九つの宿があり、商会は比較的高価な宿に入った。

 高価な宿と言っても田舎の宿だ。部屋にあるのは簡素なベッドと小さいテーブルセット。以上。夜中に大きな蜘蛛がでたらしく隣の部屋でユージルが叫んでいたが、一人部屋を貰ったわたしはゆっくり眠ることができた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ