ネッドが愛情過多なのは前から知ってた
「今、わたしは、わたしの家族に会うのが正直怖いわ。でもあなたたちはわたしを信じてくれる。それなら、向き上えるのは今しかないと思うの」
ネッドがこれでもかと眉間にしわを寄せてうつむく。そのうち皺が取れなくなりそうだわ。
ランタンしかないから周りは暗いのに、その表情はハッキリ見えた。
「もし、うまくいかなくても、また逃げちゃうわ。それでいいじゃない。逃げるが勝ちって言葉が私の生まれ故郷にはあるもの。誰になんて言われても、わたしは、わたしを大事にしたい。そう思うの」
「もちろんです。その時は俺もお供します」
「そうね、きっとあなたが今まで守ってくれたから、わたしは全く不安がないの」
ねえ、ネッド。
「信じて。きっとうまくいくわ」
ネッドはしばらく何かに迷っていたようだけど、一つ小さく頷いてわたしの前に跪いた。
「アレクセイだけがあなたを愛しているわけじゃない。俺だってあなたが大事だ。だから、どんなことになってもこの王都から脱出してください。誰を利用しても、踏みつけてもいい。王都さえ出ればあとはベルノーラ商会の者が必ず助けます。俺も、必ずあなたのもとへ行きます」
大げさだなと、少し笑ってしまった。
「いちおう言っておきますが、俺の愛しているは、男としてですよ。あんたの両親が許してくれたら妻になってくれと跪くので覚悟しててください」
どんな脅し文句だよ。
「でもネッド、あなたまわりに子ども趣味の変態だと思われるわよ?」
「実際夫婦になるのは数年後でかまいません。アレクセイが戻るまでに既成事実があればいいです。そうすればあいつも諦めるでしょう」
やべえなこいつって突っ込みはなんとか飲み込んだ。
「わたしはあなたのこと、家族だと思っているわ。でも男性として愛せるかは別よ」
「大丈夫です、俺以上にあんたを愛せる人間はいないって、何年かかっても証明し続けます。俺はアレクセイのようなイイコちゃんじゃないから、どんなことでもできますし。たかだか11歳差なら許容範囲でしょう」
え、まって、今新事実。ネッドってまだ・・・
「人の年齢を計算するのはやめてください」
「もっと年上だと思っていたわ!」
「ほう? 俺が更けていると言いたいですか、そうですか。噛みますよ」
「ぎゃっ! ちょっと、指先噛まないでよ!」
わたしの右手の人差し指、本当に噛んだ!
「大丈夫、まだ指一本です」
何が!?
「ああ、他にも下さると。俺の飼い主は優しいですね」
「言ってませんけど!?」
「だいたい、もとの世界では大人だったんですよね。ガキじゃあるまいし、男がどういう生き物かも知ってるでしょうに」
「あなたみたいにグイグイくる野獣みたいな男とはとんと縁がなかったわよ」
「光栄です。つまり俺がお嬢さんを染められるってことですね」
「前から思ってたけど、ちょいちょい前向きなの、なんなの?」
「気付いたんです」
絶対ろくな事じゃないわね。思わず顔をしかめてしまった。
「お嬢さんみたいなあざとい? 人には、嫌でも思い知らせないとと」
「わたしのどこがあざといって!?」
「アレクの心を弄んだし、なんかよくわからない異国の戦闘狂に懐かれるし、赤い目の変人と仲良くなるし、あなたを殺そうとした元憲兵とゲームなんてするし」
いや、それだけ聞くと確かに酷いな、わたし。
「俺のことも、弄んで。もうお婿に行けませんよ」
「めんどくさいから、嫁を取りなよ。なんか巨乳で剣を振り回したり槍を振り回せそうな美女とか。ほらネッド、強い人好きじゃない」
「うれしいです。俺の嫁になってくれるんですね」
「あんた、この貧乳に喧嘩売ってんの?」
なんか微妙な空気になったからか、ネッドはそっと立ち上がって私の手を取ると、またゆっくりと歩き出した。
「確かに、お嬢さんは貧乳なんですよね。これでちゃんと胸も育っていたら完璧なのに。あ、もうちょっと大きくなる予定あります? まあ俺はそのささやかなのも嫌いじゃないんですが。いや、ここから俺が育てるっていう手もまた・・・」
「今の発言は大旦那さまに報告してあげるわね」
とびきりの笑顔を彼に向けると、しまったって顔をしたけどもう遅いわ。
ネッドはその晩、大旦那さまに呼び出されて朝まで説教を受けたらしかった。




