可愛いあなたのために sideアレクセイ
リーナが私を選ばないことは、もうとうにわかっていた。
それでも、どうしても彼女を諦めきれなくて、もっとずっとそばに居たくて。
「リーナ、しばらくネッドさんと離れてもらえますか。二人が一緒だと目立つのです。二人の力量は明らかに差がありすぎ、ネッドさんほどの強い人が素人と歩いているだけで冒険者たちは不審に思うでしょう。たとえばあなたがお嬢さまの格好で彼を従えるのはいい。それが彼の護衛依頼だと判断されるから。けれど同じ冒険者の格好では、あまりにも不自然なのです」
リーナは真剣に、なるほどと頷くが、ネッドさんが私を射殺さんばかりの視線で貫いてくる。さすがにちょっと怖いが、ここは引くことはできない。なにせここで引いてしまえば、彼女を王家に取られる可能性が格段に上がるからだ。
同じ理由から、旦那様が連れてきた異国の冒険者も連れていくことはできない。
どれだけ難しくても、どれだけ苦しくても、私は彼女に幸せになってほしい。そのためならばどんな手段もいとわない。
「ネッドは後から王都を出るの?」
「それが一番かと」
「ネッド、いい?」
「・・・俺が決められることではないので」
怒ってる。めちゃくちゃ怒ってる!
「わかったわ。王都から出て、しばらくしたらネッドに会えるなら、わたしはかまわないわ。森を抜けるためにも、わたしにはネッドが必要だし、ネッドもしばらく休暇だと思ってゆっくりすればいいわ」
そんな無理を言ってはいけない。今でさえ彼は俺を殺したくてたまらないだろうに。
「もちろんリーナが一人で王都に出ることはできません。そこで協力者を募りました。具体的には脱出当日にご紹介しますが、必ずあなたを外に連れ出してくれます」
「アレクセイ、どうしても冒険者でないとダメなのか」
ネッドさん・・諦めきれない気持ちはわかるが、ここは耐えてもらうしかない。
「この時期王都から出る人間は目立ちます、他の時期ならば別の方法が選べたのですが、今はよくないのです。あなたならわかるはずです」
だからそんな恐ろしい目で見ないでほしい。旦那様やワイズ様ですらドン引きしてますよ。
「・・・そうだな」
ちょ、今音も出さず舌打ちしましたね!? なんて器用な・・・
「冒険者登録すればバレないか?」
「冒険者ギルドについては王家や貴族すら口出し不可です。たとえ登録したことがバレたとしても、それはずっと先になりますし、なにより一定期間依頼を受けなければそのうち登録も抹消されます。王都から出る時は採取依頼を受けたフリをしておけば堂々と出ていけます」
リーナ、本当に採取するつもりなのかな? キラキラした瞳で私を見ないでほしい。
「登録は本名でやるの? 偽名?」
「もちろん、本名です。ただ、ここで一つ問題があります。アーシェ様にリーナが冒険者登録したことが即刻バレますので、あなたは街に戻ったらちょっと大変かもしれません」
あ、思い切り顔をしかめた。
「かわいい」
「少しは隠せ、馬鹿者」
ネッドさん、自分だって可愛いって言いまくってるの知ってるんですからね。
「んもう、わたしが可愛いのは分かったから、それより、アーシェ様についてはどうしたらいいかしら? 煙玉とか用意すればいい?」
「なんでそんな危険思考に走れるんですか、アーシェ様については俺に任せてください。こう見えても闇討ちは得意です」
旦那様の前で何言ってるんですかこの二人は!
「・・・それはどうでもいいので後日考えてください。それでは、旦那様たちは彼女が彼女に見えないような初級冒険者の衣装と、武器になりそうなものを用意してあげてください。間違っても剣はダメです。自分の足を切ってしまうかもしれません」
「アレクの中のわたしの印象、おかしくないかしら?」
おかしくはないだろうね、受けた報告では、ある意味天才的に才能がないということだった。これに関してはネッドさんも異論はなさそうだ。
「先をつぶした弓矢をご用意しましょう。何本かは見せかけで筒から抜けぬように。実際一本も抜けないのは不自然ですから、お取り扱いには重々注意していただけますと」
さすが筆頭家令、わかっていらっしゃる。
「わたしの扱い、変だとおもうの」
「皆さん、可愛いあなたに傷ついてほしくないんですよ。ところでリーナ、もう少しだけお話ししたいのですが、別室でも構いませんか」
ネッドさんがまた怖い顔でこちらを見たが、リーナは笑顔で頷いた。
たとえ、私のことをなんとも思っていなくても、この笑顔が守れるならばなんだってしよう。心に強く思った。




