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これは優しいお話です  作者: aー
   二度目の王都
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変装はお手の物

 わたしの姿を見て、ネッドが少し困ったように眉をひそめた。

「ちょっと、どうしてそんな顔なのかしら?」

「お嬢さんにまた悪い虫がつくじゃないですか。だいたいなんです、どうやって背を伸ばして・・・ああ、靴底をこんなに厚くして。転んだらどうするんですか。でも可愛いです」

 褒めるのか心配するのか、忙しい男だ。

 王都から出るのはすぐにというわけにはいかないらしい。約束通り数日は大人しくするほうが無難だ。

 助けてくれたお姉さんにお礼も言いたいし、総一郎にも挨拶をしたい。あと他にも何人か。そのためには時間も準備も必要だった。

 その準備事態はワイズや他の使用人が頑張っているらしい。わたしとネッドは暇な時間、商会の新しい商品を試したり、宣伝のためにドレスを着たりと忙しかった。

「ありがとう、ネッド。でも先に褒めなかったのは良くないわ、減点よ」

「申し訳ございませんね。あんたが可愛いのは当たり前なんだから、いちいち褒めなくてもいいでしょう」

「よくないわ。そういうの、もてないわよ」

 今わたしは、水色のウィッグを付けて、白いAラインのドレスを着て、白いパラソルをさしていた。ドレスの裾でヒールは隠れているが、動くとわずかに見える赤いヒールが印象的だ。ドレスの改良のために付き合っているのだ。

 商会のドレス部のお姉さんたちがせっせと様々な布やレースを持ってきてはかざし、これはない、これはいい、などと繰り返している。

 シンプルなのはこのため。

「首元にこちらのレースはいかがかしら?」

「レースが直接肌にあたる部分は少なくしてください。痛くて長いことは着ていられないわ。傷がつきそうで怖いの」

「かしこまりました。それでは、腰からお尻にかけて大きなレースのリボンなどいかがでしょうか」

「あら、いいわね。これなら好きな色のレースを選んでもらって、自分だけのドレスが作れるかも。ふんわりとかぶせるようには出来るかしら?」

 ネッドはわたしやお姉さんたちの様子を眺め、ふと口を開いた。

「別の髪色なら、もっと違う印象では? 髪の長さも変えて、髪飾りもレースに合わせてみてはどうですか。お嬢さんなら絶対可愛いです」

「あら、素敵ね」

 お姉さんたちもキラキラとした瞳でネッドを見上げ、いそいそと新しいウィッグを持ってくる。きっと今日は一日着せ替え人形だ。

 それならば楽しまなければもったいない。

 歩くわけでもないし、普段は履かないような先の尖ったヒールや、可愛いピンヒール。町娘が好んで履くぺたんこの靴など色々試していく。

 王族のせいで、この先どうなるんだろうという不安はあったが、これはこれで悪くない時間だ。

 きっと、わたしが考え込まないようにあえて忙しくしてくれているのだろう。

 ネッドからはたった一日で、一年分の可愛いを貰ってしまった。彼は簡単にわたしを褒めるのでどこまで本気か分かりにくいが、夜に訪ねてきたアレクが、赤い顔をして可愛いと呟いたので、やっぱり商会のドレスを着た今日のわたしは可愛いわと気分を上げた。


「それで、どうやってこの王都から脱出するのかしら?」

「現在、王都には多くの人間が集まってきております。王都の星祭りは観光としても有名で、当日は大きな花火も打ちあがります。一番良いのは星祭りが終わった直後、他の観光客に紛れて脱出する方法です。しかし残念ながらリーナがどこに帰るのか、はっきりしているため、先手を打たれる可能性が高いのです」

 夜、ここ最近の日課となりつつある報告会(真夜中のお茶会)で、アレクは難しい顔をして言った。アレクの言うことは正しいと、ワイズや大旦那さまも頷く。

「つまり、星祭りが開催されるまでに出たほうがいいのよね? でもそうすると、例えば業者に扮して荷物を運ぶような感じで出ればいいのかしら?」

「現在は運び出すよりも、運び込む業者が多いため、それは別の意味で目立ってしまいます。そこでリーナには、お得意の変装をしていただきます」

 そうよね、うん、うん!

「リーナの容姿では、大人と二人で歩くと目立ちます」

「変装は任せて!」

「・・・・ですので、そもそもリーナが着そうにない格好で出てもらう必要があります。荷物などは祭りが終わった後で商会が運びますが、王都からなるべく自力で離れてもらう必要があるんです。私は今、王族に目をつけられていますから、手を貸すことは難しいのです」

 わかっている。本当は、こんな場所でわたしに会ってはいけないらしい。

 主君を裏切った扱いを受けているらしい彼は、きっと王城で辛い目に遇っているだろに、わたしには絶対にそんなことを言ってくれないのだ。

「リーナ」

「はい」

 彼は私を頼らない。だって彼にとって、わたしはいつまでたっても、あの日髪を切り落とされた少女のままだから。

「ちょっと冒険者になってみませんか」

「やるわ!」

「無理だ。お嬢さんはいろんな意味で無理だ」

 え、ちょっとネッド。そんなハッキリと・・・

「違います。何も本当に冒険者になる必要はありません。というか、無理なのは王族もわかっています。あなた方の行動は全て把握されていますから、地下の練習場で現実的ではないことも報告されています」

 何それこわい。っていうか、失礼すぎる。

 そしてどうして、大旦那さまも頷いているのかしら!?


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