もう寝かせてと心から願った side総一郎
こんな賭けをしたのは、はじめてだった。正直こいつを連れてきていい場所ではない。
地下牢だからじゃない、今ここにはあの男がいるんだ。
どんな反応をするのか、わかったもんじゃない。
それでも王族なんかにつかまるよりはマシだった。あの男のことは同僚たちに任せればいいのだから。
そう思っていた時間が俺にもありました。
「これはどうなんだろう」
「ソウ、君の選択は間違いじゃないんだけどね、まだちょっと危険だから」
目の前には黒とは程遠い銀髪の少女。ご丁寧に化粧で眉毛の色まで変えやがって。
まさか男の同僚に化粧が得意な奴がいるとは思わなかったんだ。
そのうえ、ヤローと二人でカードゲームに勤しんでいるのが更に解せない。
「もう朝だぞ、二人ともそろそろ仮眠でも取ったらどうだ」
「まって、今良いところなの」
「男の勝負を邪魔するな!」
いや、こいつ女だし。
ちなみに俺も今は牢屋の中で二人を見守っている。
格子越しに赤い制服を着た騎士が数名いるが、誰も口をはさめず戸惑った顔をしている。どうやらオウジサマではなく、王妃サマの専属騎士らしい。朝一でやってきたのはいいが、さっそく居場所がバレてんじゃねえかと焦ったのは俺だけだった。
「なあもう寝ようぜ。俺は昨日から一睡もしてないんだよ」
「大丈夫、総一郎はそこで寝てて。わたしはこのオッサンに勝ってから寝るわ」
全然大丈夫じゃねえよ。
ふたりがやっているのは豚のしっぽと呼ばれるゲームで、結構運試しの要素が強い。先に三勝したほうが勝ちだとルールを設けているのだが、二人とも慎重にカードを引くため、現在二対二で拮抗している。
「ふっ、じょーちゃん、現実を見ろ。俺のほうがカードが少ないぜ」
「そう言ってさっきも負けたじゃない。いやね、周りが見えない男って」
周りが見えていないのはお前らだけどな。
「その、王妃様がお待ちなのですが」
「こいつは誰が相手でも今は聞かないぞ。だいたい、あんたらのところのオウジサマが勝手なことするから、こいつはヘソをまげたんだ。この後は惰眠をむさぼるか飯を食うかで時間がかかるだろう。今日は諦めな」
「そんな、どうお伝えすれば・・・」
「いいか、こいつを動かしたければベルノーラ商会のトップでも連れてこい。こいつだって上司の言うことぐらいなら聞くだろうな」
上司かどうかは知らんが。
「無理ですよ! あのベルノーラ商会は我々だっておいそれとは扱えないのです!」
良い後ろ盾をもったものだ。
「じゃあ、王妃を説得するしかない。変態が夜中に奇襲をかけたせいだってね」
「あれでも一応我が国の王子なのです。変態呼ばわりはおやめくださいませ!」
見知らぬオッサン騎士が必死になって俺に言うが、俺に言われても仕方がないのに。
俺たちは現在、牢獄という名の天国でだらけているのだ。
普段は冷たい土壁が、壁一面タペストリーをかけて隠してある。これは建国以来この国の歴史を現したものが描かれていた。素人の俺が見てもよくわからん絵だ。
一応水洗トイレも、簡易シャワーも設置した。臭い消しに満開の花がそこかしこに飾ってある。普段はぺったんこで、いつ洗ったのかもわからない布団は、高級ベッドとふかふかの布団に化けた。某人間をダメにするクッションみたいなものも人数分おいてある。
これは俺がこの世界に来て初めて作ったものだ。あの心地よさは異世界だろうと恋しく、試行錯誤を重ねて似たようなものを作った。
ビーズクッションの素材がないなかで、俺は頑張ったんだ。
今では憲兵隊の休憩室に山のように設置されている。時々そこで人が死んだように眠るのはまあ、想定内だ。
俺はそれを二つ使って寝そべりながら騎士の話を聞いているが、赤い服の奴ら全員が変人を見るような目で俺を見てくる。失敬な。
ちなみに目の前の女は、さっさと商品化して売り出せとせっついてきた。自分の家に置きたいらしい。今度ベルノーラ商会を紹介してくれるらしい。
権利化は任せろと目を燃やしていたので任せようと思う。
さて、そろそろ勝負はつくだろうか。
「ところで元憲兵さん。あなた、三人いたら楽しいゲームを御存じ?」
「ふ、ババヌキなら任せろ」
いや、もう寝ようよ。俺の数時間前の緊張感を返してくれ。
報告のためにベルノーラ商会に走ったネッドはまだ帰らない。おそらく建物周辺を囲っている騎士に近づけないのだろう。
地下牢なので窓がないのが残念だ。きっと今頃は日が昇り始めた時間だろう。俺はそっと目を閉じた。
ネッドが帰ってくるまで、おやすみなさい。
「ちょっと?! 眠らないで、二人を説得してください!」




