夜中にする話だっけ?
「君のご両親にも、真剣にお話ししようと思っているよ。朝になれば部隊を出発させる手はずだ」
わたしの義両親は現在ベルノーラ商会の保護下にある。森を抜けるまでにも時間もかかる。だが、王族がそう言うのならば本気なのだろう。
ただでさえ心も体も弱っている二人が、こんな話をされたらどう思うだろうか。
もしわたしが異世界人だと知られたら、どう思うだろうか。
悲しむ?
黙っていたことを怒る?
気持ち悪いと思うかしら?
「君はしばらく会っていないようだし、私がここに招待してあげよう」
ネッドが人質にできなかったからではないだろう。きっと初めからそのつもりで動いているはずだ。
なるほど有効な人質だろう。
でもそれは、諸刃の剣だ。
「一つきかせろ。俺たちをどうしたい?」
先ほどまでと違う、総一郎の真剣な声。
「君たちは私が保護する」
「保護と拉致は意味が全然違うし、そもそもこんな強引な野郎を誰が信じるんだよ? あんたまさか、こいつの家族を人質にしようってんじゃねえだろうな」
ネッドが少年に渡した手紙の中には、万が一を想定して現状をしたためている。だから、きっと二人は、いいえ三人はベルノーラ商会が守るだろう。
「人質だなんてとんでもない。私は異世界人の保護に貢献してくれた方にお礼をしたいだけだよ」
「こいつがそれを望むとは思えないがな」
そうだ、もっと言ってやれ!
「・・・へえ、確かに。彼女は壮大な家出の最中とか。ではこうしよう。彼女が家出をした原因となった者たちに罰を与えよう」
うーわ、もう面倒くさい!
「あんた、ロリコンな上に面倒な男だな。もてないだろう」
「失敬な。私はどこに行っても女性に困ったことはないよ」
ああ、きっとロリコンの意味は分からないんだろうな。
「ロリコンは否定しないんですね」
ネッド、今は黙って見守りましょう。そんな蛆虫を見るような目を向けてはダメよ!
「こいつのことは放っておけよ。だいたい、俺らの昼間の会話を盗み聞きしていたんだろうが、そういうの趣味悪いぞ」
「この世界で困っているだろう君たちを保護するのは王族としての責務だ」
「俺は一人で生きていけるだけは稼いでるし、こいつは俺の年収を遥かに超える資産をすでに築いている。だからあんたなんてお呼びじゃない」
言いながら大きな欠伸をする総一郎。普段そんな態度を取られることもないのだろう、オウジサマは目に見えてうろたえた。
「じゃあ、誰の庇護下に入るつもりだい? 君たちが異世界からやってきたと知れ渡れば、多くの人間が放っておかないぞ」
「よしわかった! 俺は海の男になる」
「なんでそうなるんだ!?」
前から言ってたもんね。本気だったんだね。
「総一郎。よければ元海賊を紹介しましょうか?」
「おっ、わかってんじゃねえか! 世界一の海賊王を目指すのもいいな」
絶対こいつ、漫画とか好きだったんだろうな・・・
「でも彼、あなたより何倍も紳士よ」
「海賊は陸の上では紳士なんだよ」
どんな思い込みだ。
いやいや、わたしたちは夜中にどんな会話をしているのだろうか。
「もう疲れたわ。そろそろ帰りたいのだけど、まだ続くのかしら?」
「この緊張感のなさは君たちのせいだからね!?」
わたしと総一郎は互いに目を合わせて、一つ頷いた。
「俺は海で、どでかい魚を釣って生きたいんだよ。あとボインなねーちゃん両手に侍らせて楽しい夜を過ごしたいんだよ! こんなところに居られるか!」
知らなかった。総一郎にはそんな下世話な夢まで・・・
「ちなみに俺はおっぱいも尻も、どっちもデカい女がいい! 足とかムチムチなら尚いい!」
あらネッド、どうしたのかしら? いきなり耳をふさぐなんて。
え? 教育上良くない?
でも耳をふさいでも十分聞こえるのだけど・・・
「だからお前は、どんな女に言い寄られても酒場の女主人以外になびかなかったのか」
「いや、ガリガリの女抱いてもなあ。おれはむっちりした子が好きなんだよ。抱きしめたとき安心感あるじゃん」
酒場の女主人にはなびいたのかと頷けば、ネッドが深いため息をついた。
「わたしも、変態王族に手籠めにされる未来なんて御免だわ」
「そんなことしな」
い、と最後までオウジサマは言葉を紡げなかった。
なぜなら、先ほど総一郎が通ってきた扉が、外から凄い勢いで壊されたからだ。
そこには、真夜中だというのに豪華なドレス姿の、髪の長い女性が立っていた。




