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これは優しいお話です  作者: aー
   二度目の王都
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ある意味怖いネッドの本気

「君は殺せなくても、後ろの子は殺せるよ?」

 連れてこられた時点で、王族たる彼がわたしを簡単に解放することはないと理解している。シュオンに何かすれば神殿が黙っていないだろう。だからこそ、この場で最も命が軽いのがネッドだ。

 ネッドは彼にとってこれ以上なく扱いやすい存在になりえる。

 そんなことはわかっていた。だから。

「ねえ、ネッド」

「はい、お嬢さん」

 今朝は何を食べようかしら。そんな風に軽い口調でネッドに振り向いた。

 まるでわかっていると言わんばかりで、彼は普段より分かりやすく笑みを深めた。

「わたしくしのために、死んでくれる?」

 まるで宝箱をあける前のわくわくしたような表情に、なんだかわたしまで楽しくなる。

「もちろんです」

 うん、あなたなら絶対に頷くと思っていた。

「ああもうっ、なんなの、君ら! 今時騎士だってそんな軽く頷かないよ!?」

 叫ぶオウジサマを無視する。なぜかシュオンだけが呆れた顔を向けてきた。失礼な人ね。

「俺にとってはご褒美みたいなものなので」

「意味がわからない!」

 常人に理解できるはずがない。なんならベルノーラの関係者全員が理解できないだろう。わたしだって慣れていなければドン引きだ。

「だって、俺がお嬢さんのために死んだら、お嬢さんは一生俺のことを忘れられないでしょう? しばらく俺がお嬢さんの心を占めるんですよ。そんなの最高じゃないですか」

 愛が重くて怖い。でも安定のネッドだ。

 これを見ていると普段の調子が戻ってくる。まだ大丈夫。わたしはもう一度オウジサマを見つめた。

 先ほどまでの優位者の顔から、おそらく素に近い状況になっていることを自覚しているだろうか。

「気持ち悪い! 君、よくこんな男を傍に置いておくね!?」

「まあ、ネッドですからね」

 安定の彼だ。気持ち悪いのは前からだ。でも全て、本心。

 ネッドが手首をわずかにひねった瞬間、袖口に光る一本のナイフ。このナイフだけでは心ともないが、彼が死ぬ気になれば数人は殺せるだろう。

 彼らはわたしを殺せない。傷付けられない。だからネッドはむしろ安心して戦える。

「お嬢さん、とりあえずこいつら殺してからでいいですか?」

 本当に追い詰められたのが誰か、ようやく気付いたのか。怒鳴る声がホールに響いた。

「いいわけないだろうが!」

「俺の主はお嬢さんなんですが」

「君はこんな男でいいのか?」

 ええまあ、こんなんでも忠誠心はドン引きレベルで高いので。

「殺せなくても、軽く痛めつけることはできるよ。試してみるかい? 君、その物騒な物をしまえ」

「やめておけ、魔物すら避けて通るほどのギフトだ。命が惜しくば手を出すな」

 シュオンがようやくまともな発言をしたので驚いて見上げてしまった。

 彼はただ眺めるような興味の薄い瞳で王族に視線を向けている。その淡々とした表情が、逆に説得力があった。

 まあ、人間はわたしを傷つけることができるんだけどね。もう今まで何度怪我をしたことか。

 知らない人に石を投げられたり、投げられたり・・・ダメだ。思い出すと悲しくなる。

「報告では、以前首をナイフで切られたとか」

「ご覧になります?」

 そんな何年も前の傷、もう綺麗サッパリだ。

 首を強調するように髪をわずかに持ち上げ、ワンピースをずらす。

「変態が」

 ネッドとシュオンが同時に呟いた。

「まて、まるで私が脱ぐように強要した雰囲気はやめたまえ」

「大丈夫ですわ、他の方になにか言われてもきちんと説明いたします」

「どう説明するつもりだ?」

 そんな訝気に見なくても。

「殿下がわたくしの体を気にされていたので、泣く泣く脱いだと」

「脱がしていないし、そんな卑猥な言い方していないし、そもそも君は泣いていない!」

「心では泣いておりますのよ」

 調子を崩したあなたが面白くて爆笑ものだよ。笑いすぎると涙と鼻水がでるのは何でだろう。

「そんなか弱い女であるはすがない!」

「まあ、ひどいわ」

「いいからドレスを直したまえ!」

 小娘の首元を見ただけで慌てるなんて、意外と純情?

「ご安心めしませ殿下、お話しするのはアレクセイとベルノーラ商会の者たちだけでございます」

「尚悪い!」

 わがままだなあ。

 その時、このグダグダな空気を変えるようにホールのドアが開いた。

「おー、本当に拉致られてんの」

「あら総一郎、ごきげんよう」

 隊服を着崩した総一郎が眠そうな顔で立っていた。

「聞いてくれよ、隊長がゲームに勝ったら休暇くれるっていうから真剣にしてたのに、なんかこいつらが邪魔するんだけど」

「休暇のためにやっていたのね。わざわざ地下牢でやらなくてもいいじゃない」

「いや、あそこ今めっちゃ居心地いいぞ。なんせ高級ソファーとベッドと、俺らじゃ買えないような高い茶菓子がおいてある」

 そんな理由かとシュオンが呆れた顔をするが、確かに高級茶菓子は捨てがたい。

「それで、お休みはいただけそう?」

「んー。一勝しかできなかったから、二日だけだって。酷くねえ? ここマジブラックなんだけど、俺なんてシュオンサマたちのお守りからこっち、まともな休みないのよ?」

「まあ、大変ね」

「誰のせいだよ。この家出娘」

「思春期にありがちなことだから許してちょうだい」

「家出先が壮大すぎてお兄さんはドン引きだよ」

 我ながら凄い行動力だと自負しているわといえば、何故か場が凍った。

「引くわ」

 そんな本気の顔で言わなくてもいいのに、総一郎は時々意地悪だわ。


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