やることがないので冒険者ギルドに行きました
「ネッド、冒険者ってどうすればなれるの? 知ってる?」
「まあ、もともとカードは持ってますから。年に一度か、二度は依頼を受けていますよ」
緑色のカードには、上位を示す文字。あら、やっぱりすごいのね!
「つまりネッドがいればどんな場所でも平気ということね!」
「・・・あの森を単独で抜ける資格はB級以上と決まっているんですよ」
今日は薄茶色のかつらをかぶったネッドが、少しはにかんでみせる。イケメンを全力で愛でたいがドン引きされそうなので我慢した。
「わたし、今のネッドの姿絵を売れば儲けられるんじゃないかしら」
「俺を売るつもりですか。じゃあ逃亡資金が亡くなりそうなら一肌脱ぎましょうか」
「脱がなくていいわ。あ、でも服装はもう少し貴族っぽいほうが売れるわね!」
あれ? なんだかネッドの目が死んでる気がする。まあ気のせいよね。
「それにしても暇よね。毎日王都めぐりするのも体力的に辛いし、憲兵隊は正体バレたから行きにくいし。だからわたしも冒険者になってみようかと思うの」
「いや、あんたにはムリですよ。虫だって殺せないじゃないですか」
「虫は殺せるわ。むしろ、ヤツラが生きていることが許せないわ」
こわっ、って呟かれた。悲しい。
「でも武器は無理でしょう。興味があるなら冒険者ギルドの地下にある練習スペースで武器について勉強できますよ。子ども向けですし、能力的に危ないと判断されれば登録しないやつも時々いるので大丈夫でしょう」
知らなかった!
「地下なんてあるの?」
「いくつかの大きな都市では、初心者が死なないように最初にある程度訓練するんです。ああ、うちはありませんよ。なんなら森に投げ込めば全力で生きるすべを学ぶんで」
なにそれ怖い。
「ふーん、そっか。行ってみてもいい?」
「・・・はい」
ネッドは何かを諦めた様な顔で頷いた。一体彼は何を諦めたんだろうか?
一月借りている宿は食事が美味しく、風呂付き。何よりも店主が女性ということもあって中々きめ細かなサービスが行き届いている。
その宿から徒歩十分、王都の冒険者ギルドが見えてくる。
早朝と夕方は人がごった返して危ないけれど、昼間はほぼ冒険者の姿はないので安全らしい。
ネッドとお揃いの髪色を用意して勇んでやってきたわたしは、見覚えのある少年たちを見つけた。ストリートチルドレンのフリン君たちだ。
「あら、みんな久しぶりね。元気かしら?」
「はあ? 誰だよお前」
生意気そうな表情はそのまま、背がだいぶ伸びたようだ。血色も良く、手足にもちゃんと筋肉がついてる。
フリン君はわたしを無遠慮に見て、それからハッとしたように二歩下がった。
「あの時の!」
「覚えていてくれて嬉しいわ。じゃ、ここを案内して」
「なんで俺が・・・」
「あなた、今日は依頼を受けてないんでしょう? 暇なら可愛いわたしのために案内しなさいよ」
ネッドが何か言いたそうに口を開いたが、そのまま閉じてしまった。
「自分で可愛いとか言うな! きょ、今日は下の奴らの訓練を見に来てて」
「わたしも参加するわ。ちょっと興味があるの」
「お前、金に困ってるのか? そっちのにーちゃんは甲斐性なしかよ」
なぜそうなる・・・
「甲斐性なし・・・」
そしてネッドがかつてなく衝撃を受けているような?
「まあ、じゃあしょうがねえな。こっちだ、ついてこいよ」
なんだか釈然としないが、お金がないから冒険者を目指していると思われているようなので、その勘違いをそのままにしておこうと思う。そのほうが動きやすそうだわ。
「お願いするわ」
胸を張って言えば、フリン君はわたしの胸元を見て一言。
「ちっせえな」
渾身のアッパーをお見舞いしてあげた。




