心に従うのが一番
義家族のことを聞いて動揺した。まさか彼がそんなふうになっていたなんて・・・
でも、まだ早い。
まだ戻るタイミングではないだろう。
今感情に任せて飛び出せば、また街の人たちを刺激してしまう。
そうなれば小さな赤ちゃんも狙われることになるかもしれない。
ぎゅっと歯を食いしばる。二度深呼吸をして、それからアーシェを見る。
彼も疲れ切った顔だ。目の下のクマは濃く、下がった肩は弱弱しい。
「みんな、お前を心配している」
だから帰ろう。そう言ってくれるアーシェをじっと眺め続けて、考えた。
道は多分、いくつかある。でもわたしは考えても最善の道なんてわからない。
だから。
「今はまだ、ダメです。星祭りまで待ってください」
「リーナ!」
叫ぶ声は悲愴で、心が揺らぎそうになる。
わたしだってあの二人が心配だ。
「星祭りになれば、街も更に落ち着くと思います。そのあとで。こっそり帰ります。約束します」
星祭りは願いの祭りだ。今まで参加した時は、皆楽しそうに笑っていた。
今年もちゃんと星祭りを迎えられたら、街の人たちは更に落ち着くことだろう。
おりしも一月でそれを向かる。
「・・・本当か」
疑われることは仕方がない。だから真直ぐ見つめて頷いた。
「はい。今度こそ、ちゃんとします。二人に・・・三人に会います」
「・・・わかった。お前を信じる」
小さく息をつくと、アーシェが急に腹を押さえてうずくまった。
「迎えを・・・よこ・・す・・から」
「ネッドと二人のほうが確実かつ迅速に行動できます。というか、大丈夫ですか?」
「痛い・・・もう、めっちゃ痛い・・・俺はもうだめだ。最期に会えてよかった・・・ううぅ」
え、本当に大丈夫?
「ネッド!」
「はいはい。大丈夫ですよ、最高級のポーションをアーシェ様のツケで用意しておきました」
ネッドを呼んだ瞬間、小瓶を持ってどこからともなく現れた。問答無用でアーシェの口に突っ込んで飲ませる。
ねえそれ、すごく咽てるけど・・・
「っにしやがる! てめえ!」
「助けてあげたんですよ。あと、きちんと鍛えなおすように正式に連絡しときましたんで」
「ちょ、まて、誰にだ」
ああ良かった、顔色が戻ったわね。
「もちろん商会を通じて旦那様に。たかだか四発くらったぐらいで情けない」
「普通の攻撃じゃなかっただろうが!」
怒鳴る元気があるならもう大丈夫ね。
「よかった、ネッド。元気になったみたい。ありがとう、助かったわ」
「とんでもありません」
二人でニコニコ笑いあえば、アーシェが口元をひくつかせた。
「いやまて、お前も待てリーナ! 原因はこいつだ! しかも俺のツケってなんだ、いったいいくらしたんだ!?」
平民家族の三年分の食費相当の金額を聞いたアーシェは、目を開けたまま気絶するという器用なことをしたのち、わたしたちは一旦解散した。
ネッドが宿をとり、新しいかつらを用意してくれたのだ。
「ここに泊まればいいじゃないか」
「こんな高級宿、お嬢さんが大変じゃないですか」
そんな押し問答があったけれど、アーシェが王都にいる間毎日顔を見せることで納得させた。
「良かったですね、帰ることになって」
「まだ、わからないわ」
「・・・・・は?」
「戻ることは約束したけれど、あの街に住むかは決めていないわ」
「そうですか。あ、お嬢さん今夜は何食べます?」
ネッドが軽い口調で聞いてくるので、少しだけ肩の力が抜けた気がした。
「チーズとくるみを揚げたやつ」
「・・・そんなのありました?」




