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これは優しいお話です  作者: aー
   二度目の王都
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はじめの一歩を進めよう

「アーシェさま」

「ああ」

「少し、二人でお話がしたいのですが」

「ダメですよお嬢さん、襲われたらどうするんですか」

 ネッドの中のアーシェってどうなっているんだろう?

「俺も反対って言いたいところだけど、まあ今日はもう馬鹿なことはできないだろうからな。賛成だ。ちょっと二人、腹をわって話せ」

 総一郎があくびをしながら立ち上がる。もう一人もそうだねと笑って頷くと立ち上がった。

 ああ、まだあの美味しいチーズのおやつの出所を聞いていないのに・・・

「ソウ!」

 明日はまた会えるかしらと期待を込めて見つめると、わかっているよと頷いてくれた。やっぱり数少ない癒し系だ。

「ネッド。今必要なのはあんたの過保護じゃないだろ。こいつがちゃんと前に進めるようにしてやることだ。これ以上こじれるなら、その時はその時ってことでいいじゃねえか」

「・・・・ちっ」

 うん?

「ネッド、どうかしたの?」

「いえ、なんでもありません。それでは廊下で待機しますので」

「ええ、ありがとう。二人も、わざわざありがとう」

 気にするなと笑って総一郎たちは出ていった。

「・・・それで、リーナ。ようやく静かになったな」

「そうですね」

 じゃあ、はじめの一歩を進めよう。

「アーシェさま。まずは謝罪いたします。多大なるご迷惑をお掛けしたこと、深く反省しております」

「・・・ああ」

 迷惑をかけたことは謝ろう。これが大人の対応だ。

 そしてここからが、子どもでいるわたしのキモチだ。

「その上で、わたしの気持ちを聞いていただけますか」

「もちろんだ」

 なんかまだ脇腹あたりをさすっているのがちょっと気になるけれど、まあいいわ。

 わたしは、この一年近く持ち続けた不満や不安や怒りを全て彼にぶちまけることにした。

「わたしは、街の人に石や暴言をぶつけられることには慣れていました。だから、正直スタンピード後のみなさんの行動は、理解できないわけではないんです。馬鹿みたいだし、こんな美少女を前に魔物と混同するなんて、目の病気を患っているんだろうと思いますが、それも仕方がないんだと思います。よほど怖かったり悔しかったりして、誰かのせいにして楽になりたいという甘ったれた考えも認めてあげます」

 アーシェがぽかんと口をあけた。

「わたしが気に入らなかったのは、わたしの居ないところで家を追い出す計画をして実行して、短い中身のない手紙だけでなんとか形を保とうとしたことと、赤ちゃんのことを黙っていたことです。アーシェさま、あなたも一枚かんでおられるのでしょう?」

 あ、とか、いや、とかもごもご口を動かすアーシェ。なによ、ハッキリしないわね。

「わたしに失望されるのは結構ですが、あなたたちだって酷いではないですか。何も言わずに理解しろって、どんな暴君ですか。というかですね、出ていってほしいならちゃんと言葉にすればいいんですよ。保護だなんだと綺麗ごとを並べれば無罪放免とか思っていますか。その後お屋敷ではまるでわたしを隠すかのようにして!」

 はっ、いけない。少しヒートアップし過ぎたわ。

 もう冷めたお茶を一口頂き、もう一度正面からアーシェを見据える。

「あなたはあなたで、わたしを屋敷に閉じ込めようとした挙句の放置。放置って何ですか、せめて数日内にでもちょっと時間をとって話をしようとは思わなかったんですか。アレクもあなたも、わたしの部屋の前まで来てとんぼ返り。なんて軟弱なの!」

「お前気付いてたのか!」

 夜中に廊下が一瞬明るくなれば、誰かが部屋の前に来たのは気付くわよ。アレクの時は天井の気配が一瞬濃くなり、アーシェの時は静かだった。

 眠かったからまあいいかと放置したのは私だけど、夜中に女の部屋を訪れるのは感心しないわ。

「逃げることがそんなに悪い事なんですか、大旦那様にはきちんと許可を頂きましたし、逃亡資金はわたしの個人的なお金しか使っていません。ネッドの分もわたしが出しています。もちろん商会を頼ってもいません」

 あいつ・・・と呟く声は無視する。

「あの街にわたしの居場所なんてないじゃないですか。あと何年待てばよかったんです? あと何年、赤ちゃんのことを隠すつもりだったんですか? わたしが屋敷から出ていったから、二人は赤ちゃんと一緒に屋敷に入れたんですよね? わたしがいたら、二人はどこに行ったんですか? これで良かったじゃないですか」

 どんな道を選んでも、わたしと彼らが一緒にいる未来は想像できなかった。

 他の道を示してくれる人だっていなかった。

 屋敷の中は平和で、街での出来事なんてまるでないように皆振る舞ってくれた。贅沢な食事に綺麗なドレス。作られた平和の中で、数年過ごすことは難しくなかっただろう。

「アーシェさま、わたしはもうすぐ十一歳です。わたしに、あの街に居場所はありますか? あなたは、こんな場所まできて何をしているんですか。わたしをどうしたいんですか?」

 鼻息が荒くなったのでもう一口お茶を含む。

「居場所は・・・・ない」

 アーシェはどこか苦しそうに視線をさまよわせた。

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