可愛いかもしれない妹分のために side総一郎
自分でも驚いたんだ。
「あんたもう黙れよ」
こんな声を出すことなんて、今までなかった。
里奈は基本的に人の話を聞かないし、人の金で遠慮なく食うし、逃げ足早いし、自分から問題に突っ込む無謀な面がある。
それでもこんなふうに迷子の子どもみたいな泣き方をする女じゃなかった。
スラムで捕まった時だって平然としていた。
声を出さずに泣くなんて不器用な真似をする女じゃなかった。
それなのに。
「あと頼んでもいいですか」
「いいぞ」
お偉いさんの部屋にとりあえず突っ込んでアーシェのもとへ戻る。
なんでかわからんが、ネッドと睨みあっている。
「ガキ相手に何してんだ、あんた」
「リーナはただの子どもじゃない」
「ガキだろ。書類上まだ十一なんだぞ。大人げないことばっかするな。だいたいあんた、あの街にいた時から放任主義だったじゃないか。逃げたなんだという前に、逃げられるような無様をさらしたのはあんただろう!」
言葉を重ねるたび我慢ができなくなった俺を止めたのは、なんとネッドだった。
「本当のことでも、言っていい事と悪いことがあります。アーシェ様は基本的に間抜けで腰抜けで、可愛いものが好きなだけの男なんです。器用なことができると思わないでください」
こいつ、俺を止めつつアーシェをディスってんじゃねーか。
その両手を俺に向けているだけで、止める気ないだろう、本当は・・・
「おいネッド、なんだって?」
「それで、ソウ。お嬢さんを本当に連れてきてくれるんですか?」
「おう、だがまずは、今の状態からなんとかする必要がある。少しあいつに時間をくれ。夕方には連れて行くから」
それまでには回復してくれるといいが。
「・・・わかりました、お嬢さんを頼みます」
「おい、勝手に決めるな!」
「ギルドの書類が溜まっておられるのでしょう。丁度良いので片付けてください。今夜は長くなるかもしれませんし、できることをしない男はお嬢さんに嫌われますよ」
なぜかその言葉で俺の同僚たちまで動き出したんだが、どういうこった。
「一つだけ聞かせろ」
ギルマスが俺をひたと睨みつけて問う。
「なんだ」
俺は尊大に見えるように腕を組んで胸を張ってやった。
気合で負けてたまるか。
「お前は、本当にリーナの兄ではないんだな?」
「・・・・・・・・・はあ?」
今なんて言った?
「リーナは恐らくかなり高貴な家の出だ。頭もよく行動力もあり、なによりもうちの母が娘にと狙うほどだ」
いや、意味が分からん。俺はどうすればいいんだとネッドを見ると、まるでゴミを見るような目でこいつをみていた。
なあ、斜め後ろの奴の視線に気付いたほうが良くないか?
「お前とリーナは恐ろしく似ている」
いや、黒い髪に黒い目ってだけだよな!?
俺とアレが似ているとか、どんないじめだよ!?
「リーナは恐らく親しい人物に、森に放置された可能性が高い」
・・・あ?
「それはあんた、俺があいつの家族で、俺があいつを危険な場所に捨てた張本人だって言いたいのかよ?」
「そうだ。違うのか」
こいつ殴ったら、俺は地下の牢屋が住処になりそうだな。だが。
拳を握りしめた瞬間、まわりの同僚たちがさっと立ち上がった。




