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これは優しいお話です  作者: aー
   二度目の王都
159/320

売られた喧嘩を買い占めた結果 sideネッド

 久々にお会いしたアーシェ様は、疲れた様子を隠すことなく俺に状況説明を求めた。

 最後まで黙って聞いた彼はただ一言。

「なぜ止めなかった」

「旦那様のご命令でございます」

「お前、本当はただ自分がついて行きたかっただけだろうが」

 その通りですとも。

 あんなじゃじゃ馬一人にできるか。

 それに悪い男がついたらどうするんだ。あんなに可愛いんだぞ、誘拐だって俺が防がないでどうする。

「森を安全に抜けられるのは俺だけでした」

「だから! そうならないように止めろよ! あいつはまだ十歳なんだぞ、なんでそんな我儘を許すんだよ!」

 十歳と知っていながら「失望した」なんて言うか、普通。

 この人は自分の中の矛盾に気付いていない。

 お嬢さんが聡明で大人びているから、そのくらいできるだろうと思い込んでいる。

 実際はもう少し年上だけれど、それも関係ないくらい心が疲弊していた彼女に正常な判断を求めるな。

「先にも申し上げた通り、これらは旦那様もお許しになったことです。実際北に赴き、お嬢さんは落ち着きを取り戻されました。街の者に命を狙われることもなく過ごせました」

 雪玉をぶつけてきたガキどもの件は黙っておこう。なし崩し的にお嬢さんの悪行もバレてしまう。

 しかし雪玉に氷を仕込むという危険な発想はどこから来たのか・・・

「せめて王都にはできなかったのか、なんで追いかけていけないくらい寒い所に行くんだよ!」

「追いかけてこられたではありませんか。わざわざ冒険者を雇って」

「通常の三倍取られたぞ!」

 あの女、交渉上手いな。化粧品の話題で冒険者に興味を持たれたのは計算外だったが、あの女の度胸と面倒見の良さは悪くなかった。

 お嬢さんの周りにはいないタイプの女だったな。

 そんなことを考えていたらいきなりアーシェ様が俺に拳を振った。

 雇われている以上、一度は素直に受けてやる。

 ガタンと椅子ごと倒れ、わずかにでた鼻血をぬぐう。なかなか悪くない威力だ。

 しかし俺がこんな目に合うのは、あんたにも一端があるだろう。

 そう思った瞬間、俺はナイフの柄でアーシェ様の脇腹を抉った。

「グッ」

 二度、三度、そして四度目でアーシェ様は待ったをかけた。

「おま・・容赦ねえな」

「旦那様に鍛えられましたので」

 屋敷の人間ならこのくらい耐えられるはず・・・って。なんでうずくまってるんだ?

「アーシェ様、鍛え方が足りませんね。指導をご希望ですか?」

「雇い主の息子になんちゅー・・・・いや、指導はいらん。俺は一度しか殴ってないのに、なんでお前は四回もするかね!」

 いやだって、あんたがしつこいから。それに、

「売られた喧嘩は買い占めなくてはいけないらしいので」

 お嬢さん、やっぱり買い占めはやり過ぎではないだろうか。

 想像したら、親指を立てて良い笑顔のお嬢さんがいた。まあいいか。

「怖いわ! つっ・・・くっそ、久々に痛いぞコレ」

「生きている証拠がありまして何よりでございます」

「あー・・・もういい。リーナを連れてこい」

「お嬢さんならいませんよ。おそらくすでに逃亡されています」

 どうせソウのところだろうが。

「・・・逃亡先は、あの憲兵隊のところか」

「よくご存じで」

「それなら、すでに手を打ってある」

 どこかしょぼくれた顔でアーシェ様が呟いた。

「やはりこうなったか」

 それは、まるで母親に怒られた小さな子どもみたいな顔だった。



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