捕まった!
「ちょっと。憲兵っていうのは悪い人を捕まえるんじゃないの」
「だから家出少女を捕獲してやったんじゃねえかよ。お前が来たら捕まえてくれって前金で頼まれてんだよこっちは」
いやいや意味が分からない。というか憲兵が金をもらうな。
「というか、君女の子だったのか・・・」
「ほお、見事な黒い髪だな。しかしソウ、いくらなんでもこれはちょっとやりすぎじゃないか?」
「何を言ってるんです。こいつの行動力舐めないでください。ふいをつかなきゃ逃げられますよ」
人を何だと思ってるんだ・・・
かつらを剝ぎ取られたわたしは黒い髪をさらされた挙句、お腹に縄をかけられている。手足は自由だけど、縄の先は総一郎が持っていて逃げられそうにない。
こんなことになるなら、ネッドに縄抜けの方法を学んでおくべきだったわ。
わたしと総一郎のまわりには心配そうな顔の憲兵たち。全員がわたしを取り逃がさないように見張っているのだ。
一部、本当に何も知らなかったんだろうなって思うような人がいるけれど、今は静かに見守っているようだ。
「・・・ネッドは」
「さあ、あっちはあっちで大変じゃね? 殺す気で落とすって言ってたぞ」
そんなことしたらお宿が壊れちゃうわ!
「あんな馬鹿みたいに高いお宿の弁償代を払えるのかしら」
「お前はもうちょい心配してやれよ」
アーシェの実力は知らないけれど、ネッドならある程度予測がつく。何せアレクセイを鍛え上げた精鋭だ。簡単にやられることはないだろう。
「アーシェってやつは、あの若さでギルマスに選ばれる程度には強いらしいぞ」
そう聞くとちょっと不安が・・・でも。
「そんなことより、ここまでしなくてもいいじゃない」
「いや、こんな盛大な逃亡かましてるヤツが何言ってんだよ。厳重になるに決まってんだろ」
「・・・わたし、ただ働きってきらい」
「あとで菓子でも買ってもらえよ」
「星祭り限定のお菓子を食べたかったのに!」
「星祭りまでひと月あんだぞ。お前、それまでここにいられると思ってたのかよ?」
思ってたよ!
「だってまだ美味しいもの食べてないもん!」
「いやだから、あとで買ってもらえよ。だいたいお前俺より高給取りだろうが」
「そういう問題じゃないよ。美味しいは正義なんだよ!」
「俺はお前が港町で旨いもんを堪能したのを知ってるぞ。どうせ北の街でも旨いもん食ってきたんだろうが」
「カエルばっかりだったよ! 飲み物はおいしかったけど」
カエルの姿焼きはもう見たくありません・・・切実に・・・
「まじかよ。お前ゲテモノまで! ・・・どんだけ食い意地はってんだよ」
まって。まるでわたしが自分で選り好みしたみたいに思わないで!
「貴重な栄養源だったんだよ!」
「なんでそんなとこ行くんだよ。もっと別の場所があるだろうが」
「くじ引きでそうなった」
なぜか頭を叩かれた。痛い。
「盛大な家出先をくじで決めるヤツがあるか!」
「常にドキドキわくわく感が欲しいんだよ!」
「引くわ!」
酷い!
ギャアギャア言い合っていたら、ふいにわざとらしい咳が聞こえた。
「・・・久しぶりだな、リーナ」
それは実に数か月ぶりのアーシェだった。隣には真新しい痣を口元に作ったネッドが静かに立っていた。




