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これは優しいお話です  作者: aー
   ナーオス
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妖精とはなんぞや

 バントス一家に聞けばよいというアドバイスをもらった私は、ネッドと一緒に数時間前に出たはずのバントス家へ向かった。

 久しぶりとは言えない一家は当たり前のように出迎えてくれて、困ったことがあるのだろうと聞いてくれた。

 グガさんは強面だが本当に親切な人だ。

 ネッドは何故か苦手意識があるらしい。

「ああいう、裏表のない純真な人間は苦手なんですよ」

 それもどうかと思ったが、ネッドらしい理由なので突っ込まないことにした。

「何を困っている?」

「バントスさん、お聞きしたいことがあるのですが」

 ホノが可愛い笑顔でわたしを見つめてきた。キラキラした瞳がたまらんね。妹が欲しくなるわ。いや、いるのか・・・

「ホノもお手伝いするよ! お姉さん、何が知りたいの? 雪ウサギの皮の剥ぎ方? それとも雪カエルのお料理方法? あ、一緒に編み物する? ホノね、次の星祭りのマントを作ってるんだ!」

 グガさんが満足げに頷いているのが理解できないが、なに、ウサギの皮の剥ぎ方とか調理方法とか、ぜんっぜん興味ないから!

 むしろそれ笑顔で言わないで! 可愛い妹どこいったの!?

「ほ、星祭りにマントを羽織るのは、このあたりの風習なの?」

「寒いから!」

 確かに、星祭りまでまだ期間はあるが、このあたりで祭りをするのは命がけだろう。

 温かい地域だと可愛い衣装を用意するが、ここではマントを用意するそうだ。

「お二人の仲睦まじいご様子は大変愛らしいのですが、本日は別に質問がありまして」

 淡々としたネッドは二歩も下がった位置で早口に言う。

 そんなにバントス家が嫌なのかしら・・・

「どうした」

「あ、そうでした。あの、妖精がどうのという話をききまして、ここでは妖精が見えることが当たり前なんですか? というか、妖精は本当にいるんですか?」

 え、なに。親子そろって人の頭をジッと無言で見るのはやめて。

「バントスさん?」

「・・・ああ、そうだ。この街にはもともと妖精や神を信仰していて、妖精は俺たちの目にも見えることがある。俺は毎日じゃあないがな。ホノは毎日見えているぞ。大人よりは子どものほうが認識しやすいようだ」

 へえ、それを大人の人も信じるってことは、昔見えていたからってことかしら?

「どうして見えるときと見えないときがあるんですか?」

「あんたのように不安定な人間を妖精が心配しているときは、だいたい見える。そういうやつの傍には妖精が寄っていくからな。妖精がたくさん寄ってくる奴は要注意だ。そういう奴はちょっと目を離すと簡単に死んじまう」

 要注意っていうのは不審という意味ではなく、死の危険があるからなのか。

「実際、妖精たちを無視したら翌朝には遺体になってることがよくある。だから古くからこの街にいる連中は、そういう奴を見ると放っておけない」

 それはつまり、わたしが死にそうだったってこと?

「わたしに、自殺願望はありませんが」

「あんたは心が不安定だ。そういう時はこの雪の街では命に係わる。特に小さな子どもは家に保護することもあるんだ」

 不安定なのは悩んでいるからだろうか。

「どうしたら安定するでしょうか」

「あんたの心はあんたにしかわからん。あんたはどうしたいんだ。たいていのことは、悩む時点で答えは出てるもんだ。出来ていないのは、あんたの覚悟だろう」

 淡々とした低い声が、すとんと心に落ちた。

「覚悟・・・いえ、そうではなくて。あの、だから妖精とは」

「よくわからん。虹色のと俺は呼んでいる」

 妖精は虹色なの?

「どうしてわたしの頭をみるんですか?」

「俺は、あんたが妖精に好かれやすいと噂で聞いていたが、昨日まで信じていなかった。だが昨日帰ってきたらあんたの頭をなで続ける虹色のがいたんだ。頭何かあったのか?」

 あなたの奥さんにゲンコツをくらいましたと言いたいが、後ろで静かに控えているネッドが怖いので言えない。

「・・・えっと、ホノにもみえるの?」

「うん。お姉さんのことが大好きみたい! ときどきね、そういう人がいるの。でも妖精さんたちはいつでも人についてくれるわけじゃないの。妖精さんたちはいつもは雪のそばにいるから、おうちの中まで入ってくることはないの。昨日は本当に心配だったんだね。でも、今日はもう大丈夫みたい」

 なにがどう大丈夫なのかはわからないが、とりあえず頷いておく。

「妖精さんんたちは、いつも人の頭のそばにいるの?」

「んー。あんまり。お姉さんが泣いてたから、心配だったみたい」

 ゲンコツは確かに痛かった。遠慮のない力強いそれは、母の愛というか。教育的指導というか。

「今日はもう、平気ね?」

 いつも小さくて可愛い妹分のホノが、わずかにお姉さんみたいな顔をして笑った。

「うん。大丈夫。あ、もう一つだけ。もしかして宿屋のご主人にも見えていたりするのかな?」

「ああ、あんたらが泊まってる宿か。あのじーさんは見えてるぞ。おそらく俺よりも見えてるはずだ。何人か救ったことがあるからな」

 あの視線の数々は、嫌な客だと思われていたのではなくて、純粋に心配されていたというの!?

 今日一番の驚きだわ・・・

 呆然としたわたしに、ネッドが小さくため息をついた。


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