グガ・バントスが見たもの sideグガ・バントス
木こりの息子として生をうけ、そのまま親の後をついで木こりをしている。
美人な妻と可愛い娘。贅沢はさせてやれないが幸せな日々を送っている。
娘のホノは、いつもどこか人と違うところを見るような子で、だいたいそれは俺たちには見えないものだった。
昔は俺にも見えていたはずなのに、今では時々見えるかどうかだ。
それでもこの街には、他にはないものがある。それは虹色の何かだ。
久々に見えたそれは、人の頭をなでていた。
黒い髪に黒い目の少女。ホノより少し上の年齢だろう。その少女の頭をなぜか撫でているソレ。
いったい何があったんだ?
思わず玄関で立ち止まってしまった俺に、その少女は礼儀正しく目礼した。
「お邪魔しています。リーナと申します」
「おかえりなさーい」
うちの娘もこのくらいできるようになるだろうか、彼女との出会いは良いモノとなりそうだと密かに嬉しく思う。
「・・・・・・・ああ、ゆっくりしていけ」
それにしても頭をどうかしたのだろうか?
妻を見るが不思議そうな顔で俺を見ているだけだ。どうやら虹色のを見ているのは俺と娘のホノだけらしい。
「ねえ、夜はうちでご飯たべていってくれるでしょう?」
ホノが甘えるように少女の腕に抱き着く。
娘が二人いたらこんな感じだろうか。もう一人ぐらい作ってもいいかもしれない。
「ううん、戻らなきゃ。ネッドに何もいわずに来ちゃったし」
えー。と文句を言う娘。俺も同意見だ。
少なくとも虹色のが心配しているときは、何かがあるときだ。ちゃんと見ていないといけない時だ。
「食っていけ。あんたの連れには俺が連絡してやる。なんなら連れてくるから、食っていけ」
とはいえ、確かに保護者に何も言わないのは良くない。今の時間はどこにいるだろうか、仕事仲間に協力してもらい探そう。
「でも・・・」
しぶる少女をホノが引き留めている間に、俺はもう一度ドアに手を当てる。
「いっしょにいるの! ねえ、今日はいっしょがいいよ」
「そうしろ。俺はちょっと出てくる」
今、この少女を一人にしてはいけない。
少女の保護者は武器屋をめぐっていたようだ。いくつかのナイフを見比べていたところを確保した。
「はあ? うちのお嬢さんを?」
冗談でしょう? あなた、初対面ですよねと冷たい声音が俺を責める。
「ホノが仲良くなったらしい。ともかく、あんたが来ないと話にならん。ついでにうちで飯を食っていけ。宿屋の飯じゃあ飽きるだろう」
「いや、だからなんでそういう話になって・・・わ、ちょっと、腕を引っ張らないでください」
一瞬だけ見えた、右腕の袖の中に暗器のようなものが・・・いや、きっと気のせいだ。
「まあ、嘘だったら承知しないんで別にいいですが」
深く聞いてはダメなやつだと思いつつ、男を引っ張って家に帰った。
正直男は怪しいが、虹色のは男に敵意をもっていなかった。むしろどこか喜んだように男のまわりを飛び回っていた。
二人には食事を与え、今夜は泊まるように伝えるが、男は宿に戻るという。一応俺たちを信用してくれたのだろうか。
翌朝かなり早い時間に迎えに来て、それから二人して帰っていた。
「お姉さん、大丈夫かな?」
「昨日よりはマシになったようだな」
そんな会話を娘としながら見送った。
そのわずか一刻後。今度はあの少女が困った様子で訪ねてきた。
まわりにはやはり虹色のを連れている。
「何を困っている?」
「バントスさん、お聞きしたいことがあるのですが」
ホノが愛らしい瞳を彼女に向けて笑みを浮かべた。
「ホノもお手伝いするよ! お姉さん、何が知りたいの? 雪ウサギの皮の剥ぎ方? それとも雪カエルのお料理方法? あ、一緒に編み物する? ホノね、次の星祭りのマントを作ってるんだ!」
やはり、娘は二人いても良いな。並び立つと本当に可愛いものだと頷きながら見守った。




