予期せぬ客人
「どーも、あたしはサルサラ。冒険者よ。ギルドから依頼を受けてきたんだけど、あんた、なんで宿にいないのよ」
その人は青い髪と瞳の若い女の冒険者だった。
宿の中とはいえ、この寒い地で腹を出したセクシーな格好で足を組んでこちらを見ていた。
この街の女性はあまり濃い化粧をしないので、彼女のようなフルメイクがなんだか新鮮だ。そんな彼女は宿泊客ではないので、食堂で話すように言われてしまったらしく昼前からエールをあおっている。
冒険者久々に見たなぁと感動したり、空色の目が父にいていると思ってジッと見ていると、背後に立っていたネッドが一瞬わたしの背を押した。ちゃんとしろということかしら。
「どのようなご用件でしょう」
「あんたの無事を確かめて、できれば王都まで連れてこいって」
うへぇ、王都ってわたしにとっては鬼門なんだけど。
「・・・恐れ入りますが、どなたからでしょう?」
「あんたの街のギルマス。もうじき王都に行くから、あんたとそこで落ち合いたいって」
ギルマスといえば、アーシェのことだろうか。
最後に会ったとき、彼はとても怖い顔をしていた。
あんな顔でもう一度睨みつけられたら、今度こそ立ち上がれなくなるかもしれない。
「じゃ、いこっか」
エールを飲み切った彼女は当たり前のように言う。風を切るような勢いでローブを羽織り長い槍を手に取った。ほほう、槍使いとかゲームみたいで格好いい。
・・・って、うん? どこにいくって?
勝手に行くことが決定していて驚く。後ろを見なくてもネッドの機嫌が氷点下まで下がっているのがわかった。チャリッと何かが当たる音が・・・
まさか刃物じゃないでしょうね!?
「・・・ギルドマスターはなぜ、わたしに会いたいのでしょうか」
ドキドキ心臓がうるさい。後ろを振り向くのが怖い。
「知らないわよ。あたしは依頼を受けただけ。あんたの無事を確認出来たら最低限の金を貰えて、あんたをギルマスに合わせられたらプラスでお金が発生するの。で、あたしは金が欲しい」
わかりやすい人だ。だけど嫌いじゃない。
「あと数日もすればここから出られなくなるわ。だから、急ぐわよ」
確かに、他の人にも同じようなことを言われた。だからと言ってすぐに決断はできないけれど。
「・・・では、返答は明日までお待ちください」
「はあ? あたしは早く帰りたいんだけど」
イライラを隠すこともない彼女は、貧乏ゆすりをしながら勝手に追加したエールを一口飲んで、それからガクッと体を倒した。
「・・・ネッド?」
まさかと思って振り向けば、
「少々姦しい方ですので、お休みいただきました」
良い笑顔をいただきました。
いや怖いって!
「それで、どうしますか?」
「わからないわ。とりあえず、まずは妖精うんぬんを教えて。ホノったら、今朝も私の頭を何度も眺めていたのよ」
まさか酷い寝ぐせでもと思ったが、そうでもなかった。なんだったのだろうか。
「そうですね。では・・・よろしければバントス氏に聞いたほうがよろしいかと」
「ホノの?」
「御父上ならば、説明いただけるかと」
どこか遠い目をしているネッドを不思議に思いつつ頷く。
「昨日のお礼をきちんとお伝えしなければならないし、行きましょう。あともう一つ確認したいことがあるの」
わたしたちは彼女をわたしのベッドに寝かせて(ネッドが心底嫌そうな顔をしたのはみなかったことにした)、宿を後にした。
宿の主人がじっとこちらを見ていたが、やはり不審だと思われたのではないだろうかと落ち着かない気持ちだった。




