行儀見習い初出勤
ギルマスことアーシェの家に行儀見習いに行くことになった翌日。早速早朝から父と二人でギルドに出向いた。
早朝のギルドは多くの冒険者でごった返していて、いったいどこからこんなに湧いて出たのかとゾッとするほど筋肉ムキムキな人たちであふれかえっていた。
「お、リーナじゃないか。お前今日からギルマスの家で世話になるんだろう? 良い子でいるんだぞ」
「おはよう、フェリコスさん。わたし、がんばるね」
「おう、頑張れ!」
森で出会ったフェリコスは笑顔を浮かべて、私の頭をぐしゃぐしゃに撫でてギルドを出て行った。
あーあ、せっかく丁寧に梳かしてきたのに・・・
「リーナおはよう。無理せず頑張るんだぞ。お前は結構どんくさいからな。怪我なんてすんじゃねえぞ」
「おはよう、アレグリさん。大丈夫、こけないように気をつけるよ」
アレグリも森で出会った人だ。くしゃっと頭を撫でて出て行った。
「おはようございます、リーナさん。頭が凄いことになってるよ。僕が綺麗にしてあげるからこっちにおいで」
受付のフレスカさんがにっこり笑って櫛をかかげて見せた。
大丈夫なのかな? いっぱい人がいるのに・・・
「急げリーナ。みんなが待ってるぞ」
父にせかされてフレスカさんのもとへ走る。
「おはようございます、フレスカさん」
「そこに座って。簡単に髪を結おうね」
子どもに慣れていると言っただけあって、フレスカさんは手早く私の髪を綺麗にしていく。見慣れない白くて綺麗なリボンでハーフアップにしてくれて、はい出来たよと優しく声をかけてくれた。
「僕からのプレゼント、行儀見習い頑張ってね」
うおおおおおっ、この人ほんっと、恰好いいなあっ!
「あ、ありがとう、フレスカさん」
「どういたしまして」
にこにこ笑い合っていたら、少し離れた場所で父が立っていたのでそちらに向かう。
もちろん、フレスカさんには手を振って親愛をしめしておいたともさ。
「おとーさん、みて! フレスカさんがやってくれたの!」
その場でくるくる回れば、普段はいかつい顔の父がふっと笑った。
「ああ、よく似合ってるな」
フレスカさんに目礼する父にあわせて、もう一度ありがとうの気持ちを込めて手を振った。フレスカさんも笑顔を浮かべて手を振りかえしてくれたので今日はいい日だ。
「おはよう、俺の可愛い子」
「おいてめえ、その舌引っこ抜かれたいのか」
たとえ、頭上で変な会話が交わされていようとも。
「なにおう、お前ばかり良い思いをするなんてずるいだろう!」
「お前が言うか!?」
ずんずんと、堂々とした足取りで登場したのは言わずと知れたギルドマスター・アーシェ。結構なボンボンらしい。
今日も笑顔が眩しい変態さんだ。
その後ろには見慣れないオジサンが一人。燕尾服を着て執事のようだ。
「おはようございます、アーシェおじちゃま」
「うん。今日も可愛いなあ!」
だらしなく笑うアーシェを無視して、私は燕尾服の人をじっと見つめた。なぜなら、その人も私の事を値踏みするように見ていたから。
「ああ、紹介するぞ。こっちはうちの家令でワイズだ」
「おはようございます、お嬢さん。ワイズ・ホクマーと申します」
その人の目には警戒心も嫌悪感もなかった。ただ当たり前のようにすっと頭を下げた。値踏みしていたのは自分の主が連れてきた相手がどんな存在かをみていたのだろう。ある意味で当たりまえの反応だ。
「おはようございます、はじめましてワイズさん。わたしは、リーナです。おせわになります」
ぺこりと頭を下げたら、静かな瞳の老人と目があった。
「うん、うん。俺の可愛い子は今日も可愛い! さあ皆の衆! 今日もガンガン働いて行こう!」
「あんたが一番働け。じゃあリーナ、俺は言ってくる。ワイズさん、うちの娘をよろしくお願いします」
「承りました。どうぞ、お気をつけていってらっしゃいませ」
深々と頭を下げるワイズに、父もすっと頭を下げて大きな掲示板があるほうへ歩いて行った。
「おとうさん、いってらっしゃい!」
「おう」
そして、私とワイズはすぐにギルドを出た。あのままじゃあ本当に邪魔になってしまうからね。
「それではリーナさん。我々も仕事に参りましょう。まずは、屋敷までの道を覚えてもらうために歩いて向かいます」
「はい、よろしくおねがいします」
私はフードを被り、歩き出したワイズの後をついていった。
さあ、今日から頑張らなくちゃ!