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これは優しいお話です  作者: aー
   ナーオス
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親切な少年

 親切な少年だと思った。

 ヒルマイナって呼ばれるプリースト(どうやら司祭という立場らしい)に長々と説教を食らったあげく、食事を買いにわたしの傍を離れたネッドがいない隙に先日の悪ガキに雪玉を三発食らった。

 ちくしょう。あんのガキどもって思いながら歩いていると人の姿が窓越しに見えた。

 先日会った少年だ。名前は・・多分聞いていない。

 ネッドが真面目な顔であの少年とは一切関わるなと言うので、逆に興味が出てしまった。

 くすんだ金髪と春のように爽やかな青い瞳。あらやだ美少年と思いながら見つめていたら、なんと窓を開けてくれた。

 なんて親切。しかも部屋の中に侵入したわたしにタオルを貸してくれた。

 それにしても寒い部屋だ。暖房もないらしい。外よりはマシってだけで、ボロボロの傷だらけの手を見た。

 ここの財政難はかなりのものらしい。

 考えながらガシガシ頭を拭いていると、少年は慌てた様子でわたしからタオルを取り上げて優しく拭いてくれた。

 なんて良い子だ。先ほどの悪ガキとそう変わらない歳のころだろうに。

 しかし解せない。なぜ何も言わないのかしら?

「あなた、ここはあなたのお部屋なの?」

 少年はしばらくわたしの顔をじっと見つめて、それからゆっくり頷いた。

 寒すぎて動きが緩慢になっているのだろうか、心配だ。

「ここは寒くないの?」

 何故かボロボロのコートを渡された。いや、別にわたしが寒いわけじゃないのよ。

「ここには暖房はないのね。暖房のある部屋にはいかないの?」

 床がわずかに温かいから、もしかして地下にお湯が流れているのかもしれない。それでも痛いほどの寒さだ。

 少年は何度か口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返し、ようやく言葉を発した。

「僕は・・・いけないから」

「どうして行けないの?」

「みんなに、嫌われてる」

「こんなに親切なのに? でもこの街の人は皆保守的だわ。あなたの勘違いではなくて?」

 困ったように視線をさまよわせる彼の手を掴んだ。

 カサカサで、冷たい手だ。

「わたしは寒いわ。あなた、一緒に温かい部屋に行きましょう。あと体に悪いからなにか暖房器具を借りなさい」

「僕はもう、慣れてる」

 今年の冬は特に厳しいと街の人が言っている。夜になればもっと寒いだろう。この寒さは今後更に酷くなるとも聞いたのだ。

 血色の悪い肌。まるで借りたタオルのように弱弱しい少年を放ってはおけない。

「わたしが寒いの。案内してちょうだい」

 ヒルマイナに交渉してみよう。まさかこんな施設の中で凍死者をだすこともないだろう。

「・・・こっちだ」

 少年はしぶしぶといった様子でわたしを促した。

 冷たい手を握ると、わずかに目を見開いた。けれど結局何も言わず歩き出してしまった。

 彼はしばらく誰も居ない廊下を進んだ。隙間風が入ってくる木造の壁。床は体重をかけるとギシギシ音を鳴らした。外の雪の音がビュービュー叫んでいるみたい。

 この廊下には明かりや窓もないのか、昼間だというのにとても暗かった。

そこから更にしばらく進むと、急に明るくなった。廊下には絨毯がひかれ、高い位置に明かり窓が差し込まれている。それだけでずいぶんと温かい空間ができている。

「あのドアの先に、他の人がいるよ」

「わたし、人見知りなの。ついてきて」

「・・・人見知りは人の部屋に窓から入ってこないよ」

「緊急事態だったのよ」

 小さくため息をついた彼は、どこか緊張を含んだ目で少し先の扉を見た。

 なんの変哲もない木製の扉。

「さ、行きましょう」

 彼は分かりにくいほど小さく頷いた。

 ドアを強めにノックしてノブを回す。

「何か御用ですか?」

「外で男の子たちに雪をぶつけられてこんなになってしまったの。温かいお部屋で休ませてくれないかしら」

 そこには、少年より少し年齢が上の、他の少年たちがいた。

 全員が、わたしではなく彼を見て顔を顰める。

「・・・それは大変でしたね。どうぞ中にお入りください。今ヒルマイナ様をお呼びいたしますので」

「じゃあ中で待たせていただくわ」

 彼の手を引っ張ったが、彼は頑固として足を前に進めなかった。

「この人が助けてくれたの」

 年かさの少年はわたしの言葉に目を見開いて、それから笑った。

「ご冗談でしょう」

 それはとても、醜悪な笑みだった。


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