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これは優しいお話です  作者: aー
7歳 家族になりましょう
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父の想い sideラティーフ

 仕事終わり、ギルドマスターに呼び止められた俺は、リーナのことで提案を受けた。

 ギルマスの家で行儀見習いにならないかと。

 ギルマスといえばベルノーラ家として知らぬものはいない豪商。家はとてつもなく大きく、下級貴族よりも発言権を持つときく。

 だが。

「お前、うちの娘を狙ってるだけじゃねえだろうな」

 いかんせんこの男はうちの娘を狙っている様な気がしてならん。

 ジロジロと不躾に見ると、ギルマスがムッとして言い返した。

「このアーシェ・ベルノーラ! 誇り高きギルドマスターとして純粋に彼女の未来を案じているのだ! だいたい、お前のような無骨ものでは、女の子の成長や感情の機微などわからんだろう! どうする、月のモノがくるような年齢になって、あの子をフォローできるのか? 女の子の成長なんてすぐだぞ!」

 おまっ、つ、月のモノとか大声で言うな!

 ああほら、驚いた他の冒険者が信じられないって顔で俺たちを見てるじゃないか!

 ギルドの外では多分リーナが待っているだろうから、俺たちは一歩も外に出ていないのだ。もちろんのこと、たくさんの冒険者が同じ空間に居る。

「・・・・・・っ」

 だが、言い返したくてもその通りの内容で、クソ腹が立つが言葉がみつからん。

「そんな怖い顔をしても駄目だぞ。今のリーナには圧倒的にみかたが足りない。少しずつでも増やしていかないといけないだろうが」

 その通りだが、この男に言われると本気で気に入らんのだが。

「その点うちなら女も何人かいるし、礼儀作法も教えてやれる。街の事も明るい時間に大人がそばについて教えてやれるし、小遣い程度稼げればリーナも喜ぶだろう。まあ、うちは他人に対して厳しい人間が何人かいるが、それでも悪い環境ではない」

 商いをしているからか、人間に対しては特に厳しい目で見る傾向があるようだ。はたしてそんな場所でうちのリーナが耐えられるだろうか。

「女の身体の事は俺たちでは教えてやれない。これから、どんなことがあるかもわからない。もしリーナが体調を崩したらどうする? 今のままじゃ、医者も診察してくれないかもしれない。お前だって、街の連中がリーナを避けているのはわかっているんだろう?」

 グッと奥歯を噛みしめる。

 そんな事、いやという程わかっている。多分俺よりもリーナは肌で感じている。

「うちには出入りの連中の子どもを預かることも多いから、年の近い子と友達になれるかもしれない。なあ、考えてみてくれないか」

 真剣な目をしたギルマスは、一人の大人として本気でリーナの将来を案じているのだろう。そこには厭らしさも損得勘定もない、ただ気のいい男が立っていた。

「・・・・わかった。一度リーナと話をしてみる」

「あ、リーナにはもう伝えてあるから。あとはお前と話すって! ・・・ぐふっ」

 思わず無言で拳を腹にぶち込んでやったが、ギルドの連中は見て見ぬふりしてくれた。


「リーナ、変な奴と話しちゃ駄目だろう」

 ギルドの外でいつものように俺を待っていたリーナに開口一番言えば、綺麗な黒い目がパチパチ瞬いた。

 お前、何をやっても可愛いな・・・

「アーシェおじちゃまたちにお礼にいきました。フレスカさんにはお茶をいれてもらったの」

 こいつは、俺が誰を指しているのか正確に理解しているらしい。この前も同じような事を言った時、一番にギルマスだと思ったようだしな。あいつもちょっと不憫かもしれない。

「フレスカとも話したのか、いい奴だったろう」

「うん、わたしの黒いかみが、きれいだっていって、なでてくれたの」

 ふにゃんと愛らしく笑う姿に、本当に嬉しかったのだとわかる。

「そうか、よかったな」

「うん!」

「ところで、ギルマスに何か言われたか?」

「ぎょうぎみならいに、ならいかって言われた」

 多分こいつは行儀見習いが何かわかっていないのだろう。俺はなんて言うべきか悩み、それでもこいつにとって悪い選択ではないはずだと自分に言い聞かせる。

「行きたいか?」

 それは、当たり前の質問だった。

 それなのに。

「・・・」

 笑みを消し、じいっと俺を見る黒い目の奥が底知れない気がして驚く。

「別に無理に行かなくても良いんだが、お前にとっていい話ではあるんだ。俺は・・・俺がいない間、お前の事を誰かが見ててくれると安心だし、お前の世界が広がるのは、正直嬉しいと思う。毎日じゃなくて、二、三日に一回でも行ってみるか?」

 あれ。おかしいぞ、俺はこいつがそこに通うことを前提で話してしまっている。

 だが、確かに有名な豪商の家で勉強が受けられるなんて、貴族ですら難しいことだ。ものすごく良い話なんだ。

 実際、何年か前に断られた下級貴族の娘もいたらしいからな。

 リーナは、俺の顔をじっと見つめて、それからわずかに視線を逸らした。

「いっても、いいの?」

「ああ、もちろんだ」

「でも、わたし、こんな色だよ? みんな、きらいになっちゃうよ」

「大丈夫だ。あのギルマスの家だぞ。むしろ想像の斜め上をいくような連中しかおらんだろう」

 そう言えば、リーナがおかしそうに笑った。

「うん!」

「いやいやいや? うちをどんな場所だと思っているのかね君たち?」

 げっ、ギルマス。いつからいやがった!?

「ちょっとそこ、嫌そうな顔をしない! というわけでリーナ、君はさっそく明日からうちに行儀見習いとしてくるように。朝こいつと一緒にここまで来てくれたら、迎えの者がここでまっているからいいね?」

「はい、おじちゃま」

「ああもうっ、なんて可愛いんだ!」

 そのまま抱きつこうとしたギルマスを全力で阻止して俺はリーナを担いで連れて帰った。


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