再会
「シュオン、どうやって奥さまを説得したんですか」
「少し話をしただけだ」
その男はいきなり屋敷にやってきた。何故かキレてる総一郎を伴って。
「この天然ボケ男何とかしろ! もう我慢の限界だ!」
「嫌だわ。久々に会った可愛いわたしに挨拶もせず、男の話なんて」
「ふっざけんな! 誤解されるような言い方やめろ」
総一郎は相変わらずからかいやすく、きっとシュオンの餌食になったことだろう。
「あのアレクセイってガキは性格悪いし、この人は天然酷いし!」
「そうよね、アレクは王都に行ってから少しひねくれた様な気がするわ。きっとあの王子のせいね。シュオンの天然ボケはわたしも手を焼いたの。あなた、わたしよりも面倒見がいいのだから頑張りなさいよ」
はあ!? と思い切り顔を顰める総一郎。護衛についている他の人が懐に手を入れたから、そろそろ落ち着いてほしいわ。
わたしの前で殺人事件なんて起こさないでね。
「それで、シュオンは何をしにいらしたの?」
「私の主人が心を傷つけられていると思うと切なくて我慢ができなかったのだ」
聞き間違いかしら?
「あなた、シュオンといつの間にそんな関係に」
「俺を巻き込むんじゃねえ。現実を受け止めやがれ」
あら怖い。
だいたい、午後のお茶を奥さまと頂いていたら、急に訪ねてきたのはこの二人の方だ。
奥さまと少し言葉を交わしたら、ごゆっくりと笑みを浮かべて退室した彼女に絶望しかけた。なぜ、この男と一緒にいなければならないの。
もともとこの男が原因で王都から逃げたというのに、なぜ目の前にいるのか。
真後ろに立つネッドの真顔が怖い・・・いやその前に、ちょっとそこの執事。静かにナイフを磨かないで、それ、デザート用とかじゃなくて狩猟用のデカいやつでしょ!?
芸人ばりの二度見をする総一郎が可哀想だから!
「この街の者たちの態度は酷い。なぜそなたが酷いことを言われなければならない? ソウのように心臓に毛が生えていればよいが、そなたは心優しい少女だ」
「おいこらちょっと待て。俺の心臓がなんだって?」
「確かにわたしの心はガラスのように繊細です。でも、あなたが来たからと言って何ができるんですか」
「何もできないかもしれない。だが、私がそなたのそばにあれば、怖いことはもう起こらないと街の者は安心するのではないか」
なるほど、そうやって奥さまに取り入ったのか。
ふむ、と頷いて「わかりました」と返事をする。
ネッドが静かに苛立った瞳を向けているのを背中越しに感じながら。
「わたしには今、時間が必要です。とりあえず二か月。その間にあなたは街の人の心を癒してください」
利用できるのならば、利用しよう。
二か月後、きっと彼は戻ってくる。その時までに様々な準備が必要だ。しかしわたしが直接動くのは良くない。頼れるのはネッドよりも今は、きっと総一郎だろう。
ネッドがわたしから離れるのは違和感を与えかねない。
「待て。俺を見るな。何を企んでいやがる」
「オニイチャンが居てくれて、わたし、とっても嬉しいわ」
「うへぇ」
本気で嫌そうな顔をする彼に一瞬殺意を抱いたが、にやりと笑う。
時間はあるようで、ない。
「オニイチャン、これからよろしくね」
得体の知れないモノを見るような目で私をジロジロ見て、それからそっと目をそらした。
「・・・おうよ」
苦虫を数匹かみ殺したような顔で、総一郎はうなずいた。




