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これは優しいお話です  作者: aー
7歳 家族になりましょう
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確信 sideアーシェ

 リーナは貴族か、裕福な家の子どもだったのだろう。

 フレスカが淹れたお茶は少し渋みを消すために蜂蜜が入っている。

 だいたいの家の茶には蜂蜜など入れないし、そもそも平民が茶を飲むのは何かあるときだけだ。普段は飲まないので茶を好まない人間も少なくない。

 だがリーナは当たり前のようにカップを手に取った。

 すっと伸びた背筋。ソーサーを片手で持ちながら、カップに口をつける姿は慣れたそれだ。決して平民が真似できない仕草を当たり前のようにしている。

 香りも、そして味もじっくり楽しんでいる。

 それが当たり前にできる環境で育ってきたのだろう。

 だが、それならば何故あんな場所に捨てられた?

 あそこは大人でも生きて出ることが難しい場所。決して子どもを連れて入る場所ではない。何よりリーナは自分の事を深く語らない。

 初日、フレスカの質問には淡々と答えたそうだが、その回答の半分は“わからない、おぼえていない”というものばかり。情報とはいえないものばかりだった。

 それでもラティーフが家族になりたいと願い、実際行動に移すほどの相手だったのだろうと推測される。

 俺達の前ではまだどこかよそよそしいリーナ。この子どもには深い秘密があるはずだ。

 ラティーフは、それを含めて守りたいのだろうが、このまま大きくなったらそれも難しいだろう。

 今は黒い魔物のように扱われているが、この少女が成長し今以上に美しくなったら、良からぬことをたくらむ連中がわんさか出てくるだろう。

 この国には数十年前まで奴隷制度があった。現在では廃止されているが、一部の人間は今でも不法に入手した奴隷たちを使役している。

 それにあわせて人買いもおり、彼女がいつそんな連中に目をつけられるか、正直いつでもおかしくないと思っている。

 ラティーフが必要以上に外に出さないのはきっと、それも関係しているのだ。

 この街はまだ冒険者ギルドがあるから、冒険者の身内には人買いは手を出さない。報復が怖いのだろう。実際過去にもそういうことがあった。だが、この状況がいつまで持つか。

 早いところ、この子どもには自衛の手段を身に着けさせるか、それなりの相手の保護を求めるか・・・いや、それは俺が考えることではないが・・・

「リーナ、行儀見習いに出てみないか?」

 俺は気付けばそんな言葉を放っていた。

「ぎょうぎ・・・みならい?」

 そっと首を傾げて不思議そうに俺を見るリーナは、本当にその言葉の意味が分かっていないのだろう。

「君の世界はまだまだ狭い。このままではよくないと思うんだ。行儀見習いになれば金を稼ぎながら常識を学べ、コネもできる。いいことづくめだ。君は施しを受けるのが嫌なんだろう? なら、自分で稼げるようにならないといけない」

 フレスカが今にも俺を殺しそうな冷たい目でこちらを見ているが気にしない。

 俺はリーナの未来のために言葉を続けた。

「とはいえ、まだ君はこの街にすら慣れていない状況だ。ということでどうだろうか、うちで行儀見習いを兼ねて勉強するというのは」

「おべんきょう・・・おしえてもらえるの?」

「もちろんただではないぞ。うちで掃除とか洗濯とか、とりあえず出来ることはやってもらう。合間に勉強だな」

 リーナはジッと俺の顔を見つめてきた。まるで心の奥を覗かれているようで少し怖いが、この子どもが生きていくためには、今のままではいけない。

 良い意味での変化が必要なんだ。

 その気持ちを込めて俺も見つめ返す。

 すると、リーナがふわりと微笑んだ。

「ありがとうございます。じゃあ、お父さんがいいよっていってくれたら、ぜひよろしくおねがいします」

 ぺこりと頭を下げて、彼女は立ち上がった。

「フレスカさん、ごちそうさまでした。かえります」

「どういたしまして。下まで送りましょう」

「ううん、だいじょうぶ。アーシェおじちゃま、またね。たくさんのプレゼントも、ありがとうございました」

 ひらひらと無邪気に手を振って、彼女は部屋から出て行った。

「・・・隊長、いえギルマス、ラティーフさんがいない所で何を勝手なことを。いくらなんでも手を出し過ぎでは?」

 さっきまで嘘くさい笑顔を浮かべていたフレスカが怪訝そうに、俺を睨み付ける。こいつ、俺と二人きりだと本当に容赦がないんだよな。

「・・・フレスカ、さっきのどう思う」

「彼女の判断が正しいと思いますよ。保護者の許可がなくては」

「そうじゃない」

 俺は思わずこいつの話を止めてしまった。

 そうだ、そういうことじゃないんだ。

「お前、何も感じなかったのか」

「はあ? なにがですか?」

「あいつ、まだ子どもなんだよな? なんで大人でも言葉に詰まるようなところで正しい判断を口にできる? それに、あの笑みはなんだ。あれは、子ども顔じゃないだろう」

 フレスカはそれでもしばらく俺を凝視していたが、やがてぽつりと口にした。

「確かに、あの判断は正しすぎる。あんなの、普通の子どもじゃない。だけど隊長、そんなことはわかっていたはずです。普通の子どもなら、あんな危険な森で捨てる必要はない。彼女には何か秘密があるのでしょう。でもそれは、僕たちが強引に暴いていいものではないと思います。僕は、この街やギルドにとってよくない存在なら許しませんが、彼女はただの女の子です。それが全てだと思います」

 フレスカが真剣な顔で言う。こいつにも思うことはあるのだろう。

「そう・・だな。まあ、時間が経てばわかることだ」

 願わくば、彼女の未来に幸多からんことを。


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