家族だったはずなのに
聞いていたよりも家族の怪我が酷かった。
父の怪我は、もう二度と冒険者ができないほどの深い傷で、治療もリハビリも時間がかかるだろう。
命には別条がないとはいえ、職を失ったのだ。
元気にただいまと言った数分前のわたしを殴りたい。
「リーナ、そう驚くな。これですむなら安いもんだ」
「おかえりなさい、リーナ。今日はおいしいスープを作ってあるんだよ」
二人の空元気が痛くて、なんて言っていいのかわからなかった。
「前のヤツはもっと酷かったんだ。被害も、こんなもんじゃなかった」
「そうだね、あたしも子どもだったけど、今でも覚えてる。それに比べれば今回は奇跡みたいなもんだね」
そうだなあ、と笑う二人に違和感を覚えた。
「ところでリーナ」
次に言われた言葉が信じられなくて聞き返す。
「え?」
「だからな、今夜からお前は」
呆然としているうちに、少し早い夕食がテーブルを飾り、何も考えられないうちに席について食べ始めた。
食べるという行為がこんなにも大変だなんて思わなかった。腕が重たくて、スプーンがうまく持ち上げられない。
「ああ大変、リーナ。お迎えが来たよ。行けるかい?」
ドンドンドン、と扉をたたく音。
まだ食べている途中だったけれど、わたしは席を立った。
たぶん、そうしなきゃいけないから。
「じゃあリーナ、またな」
そう言って父は食事を再開した。
もう二度と、私を見ることはなかった。
「ほらリーナ、良い子でね。体には気を付けるんだよ」
うん、と呟いた声は、果たして届いただろうか。
「じゃあ、この子をよろしくお願いしますね、ネッドさん」
「はい、お任せください。奥さん」
二時間ほど前に別れたばかりのネッド。屋敷執事のお仕着せを来て、いつも以上にニコニコと笑っている。これは、本当にネッドだろうか?
「お屋敷で良い子にしてるんだよ」
そう言って、母になった彼女は玄関扉を閉めた。わたしを外に出したまま。
「・・・行きましょう、お嬢さん」
ネッドの手が痛いくらいにわたしの右手を握って歩き出し、すぐに馬車に乗せられる。ネッドはわたしの隣に座ったまま閉じられたカーテンの先を睨みつけた。
ガコン、と音がしてカラカラ車輪が回転する。
「ネッド、わたし、お屋敷に住むの?」
「しばらくの間です。あそこが一番安全なので」
「おうちに帰ったばかりなのよ?」
「・・・今日からはあの屋敷があなたの家ですよ」
それはどういう意味なの。どうしてなの。
聞きたいことがたくさんあるのに、先ほどまでの二人の様子が脳裏に焼き付いて邪魔をする。
どうして、一度も目を合わせてくれなかったの?




