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これは優しいお話です  作者: aー
   スタンピード
123/320

家族だったはずなのに

 聞いていたよりも家族の怪我が酷かった。

 父の怪我は、もう二度と冒険者ができないほどの深い傷で、治療もリハビリも時間がかかるだろう。

 命には別条がないとはいえ、職を失ったのだ。

 元気にただいまと言った数分前のわたしを殴りたい。

「リーナ、そう驚くな。これですむなら安いもんだ」

「おかえりなさい、リーナ。今日はおいしいスープを作ってあるんだよ」

 二人の空元気が痛くて、なんて言っていいのかわからなかった。

「前のヤツはもっと酷かったんだ。被害も、こんなもんじゃなかった」

「そうだね、あたしも子どもだったけど、今でも覚えてる。それに比べれば今回は奇跡みたいなもんだね」

 そうだなあ、と笑う二人に違和感を覚えた。

「ところでリーナ」

 次に言われた言葉が信じられなくて聞き返す。

「え?」

「だからな、今夜からお前は」

 呆然としているうちに、少し早い夕食がテーブルを飾り、何も考えられないうちに席について食べ始めた。

 食べるという行為がこんなにも大変だなんて思わなかった。腕が重たくて、スプーンがうまく持ち上げられない。

「ああ大変、リーナ。お迎えが来たよ。行けるかい?」

 ドンドンドン、と扉をたたく音。

 まだ食べている途中だったけれど、わたしは席を立った。

 たぶん、そうしなきゃいけないから。

「じゃあリーナ、またな」

 そう言って父は食事を再開した。

 もう二度と、私を見ることはなかった。

「ほらリーナ、良い子でね。体には気を付けるんだよ」

 うん、と呟いた声は、果たして届いただろうか。

「じゃあ、この子をよろしくお願いしますね、ネッドさん」

「はい、お任せください。奥さん」

 二時間ほど前に別れたばかりのネッド。屋敷執事のお仕着せを来て、いつも以上にニコニコと笑っている。これは、本当にネッドだろうか?

「お屋敷で良い子にしてるんだよ」

 そう言って、母になった彼女は玄関扉を閉めた。わたしを外に出したまま。

「・・・行きましょう、お嬢さん」

 ネッドの手が痛いくらいにわたしの右手を握って歩き出し、すぐに馬車に乗せられる。ネッドはわたしの隣に座ったまま閉じられたカーテンの先を睨みつけた。

 ガコン、と音がしてカラカラ車輪が回転する。

「ネッド、わたし、お屋敷に住むの?」

「しばらくの間です。あそこが一番安全なので」

「おうちに帰ったばかりなのよ?」

「・・・今日からはあの屋敷があなたの家ですよ」

 それはどういう意味なの。どうしてなの。

 聞きたいことがたくさんあるのに、先ほどまでの二人の様子が脳裏に焼き付いて邪魔をする。

 どうして、一度も目を合わせてくれなかったの?


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