再会 sideスヴェン
「ディドラ帝国のスヴェン」
その声に顔を上げたのは反射的な行動だった。
俺のことをそんなふうに呼ぶのは、この国ではたった一人だけ。
灰色のワンピースを着て、手には赤い花。俺と同じ赤。
何故か頬に砂がついていたのでぬぐってやる。
「よかった。報酬待ってたんだ」
「はい、報酬をお渡しします」
よく見ると少女の右の米神には何かをぶつけた傷ができている。きちんと顔を見たのはこれが初めてなのに、俺は彼女が誰かすぐにわかる。
冒険者ギルドから少し離れた広場は、俺のように他国から来た冒険者や、遠い街から来た冒険者であふれていた。
少女の登場で一瞬あたりが静かになったが、それもほんのわずかな間。俺たちは彼女の容姿に振り回されたりしない。
「リーナ。どうしてボロボロなんだ?」
「大した理由ではないので気にしないでください」
嘘をついているようには見えないが、少し離れた場所にいる老人がこれでもかと心配そうに彼女を見つめている。ふーん? ずいぶんと不思議な気配だ。多分、結構強いじーさん。でも今は戦う気もないみたいだし、いいか。
「まあいいや。ギルド行こう。俺、ちゃんと依頼達成したでしょ?」
「はい、父は少し足を怪我しましたが、あなたが到着する前のことですので依頼に影響はありません」
それは何より。うん。うん。と頷いてもう一度米神に指を這わせる。
「じゃあ、次の依頼あったら受けてあげるよ」
「・・・森を抜けた先の街に手紙を出したいんです。行ってくれますか?」
「うーん・・・まあ、いいけど。リーナの護衛でもいいんだよ? たまには護衛依頼を受けないといけないし」
いえ、とハッキリ断られてしまった。
「ほんとうに?」
「ええ」
淡々と頷く彼女に違和感を覚えて、今度は両手で彼女の頬を包み込んだ。
深く傷ついている目だ。俺は守れたはずなのに、何かを守れなかったのかもしれない。
「手紙は三通あります。お願いできますか」
「・・・いいよ」
今度こそ、こんな顔をさせないよう気を付けていかなくては。
そう思って、でもどうしてそんな風に思ったのかわからなくて内心かしげる。
自覚しているよりも、俺はこの少女を気に入っているのか。
「そういえばリーナの婚約者に会ったよ。リーナって面食いなんだね」
「は?」
「名前・・・なんだっけ。森で会ったんだけど、聞き忘れちゃった。今は事後処理とかで街を駆け回ってるらしいよ。もう会った?」
「・・・婚約者ではないですが、会いました」
違うの?
「じゃあ、どういう関係?」
「わかりません。仲の良い友人、でしょうか」
ふぅん、と頷いて俺はリーナの手を引いて歩き出した。
何はともあれ、報酬を頂かなくては!
ギルドの中に入った瞬間、まるで時間が止まったのはこのすぐ後のことだった。




