依頼達成? sideスヴェン
それは夜中でもよく見えた。
少し離れた先に火柱が上がり、一瞬だけ熱風に襲われた。
日は徐々に小さくなったが、それでもまだ燃えているらしい。
「先に行く」
「頼む!」
パーティーメンバーを残して走った。こういう時は一人のほうが無駄がない。
長い枝や葉が俺の頬を切る。だがまだまだ。この先には恐らく人間がいる。姿勢を低くしてとにかく足を進めた。
しばらくして、視線の先には見慣れない若い男たちの姿。
「無事か!」
「冒険者か!」
年上のほうがホッとしたような顔で叫んだ。あれ、リーナに似ている。もしかして
兄妹か?
「助かった。もう武器も体力も食料もなかったんだ!」
彼らの前には人型の魔物。俺だって祖国で二度ほどしか出会わなかった強力なヤツ。
「あんた、リーナの知り合いか?」
「ああ、そうだが・・・え。なんでここであいつの名前?」
「そうか! リーナに指名されたんだ。家族を助けてくれって! よし、これで依頼完了だな!」
じゃあさっさと倒そう!
幸い火の効果か、魔物は足止めされているようだ。いったいどういう方法なのかはわからないが便乗させてもらおう。
片手剣を構えて、もう一度体制を整える。一発でヤらないとこちらが危ない。
一瞬だけ呼吸を止める。静かにそれを吐き出して不安定な足場をこれでもかと蹴った。
「え。ちがう? え?」
「いや、なんで兄妹だと思ったんだよ。ちげーよ。むしろあんな妹いたらイヤだわ」
そんな!
せっかく助けた男は関係のない人だった。なんてことだ。
「リーナとどこで知り合ったのですか?」
まだ少年の域を超えない彼に問われて素直に話せば、何故か頭を抱えてしまった。
「どうしてあの街にいないんだ!」
「ほら言っただろう。あいつのことだ。全力で逃げるに決まってる」
「私はリーナの婚約者なのに!」
「いや、それお前が言ってるだけなんじゃねえの。もういい加減認めろよ」
どういう関係だろうか。婚約者。なるほど? え、違うって?
「それはいいが、先ほどの火の手は? あれはどうやったんだ?」
「ああ、火炎瓶を作ったんだ。この森の中じゃできることが少ないからな。少しでも攻撃手段を確保していたくて」
「ちょっと待て、いつの間に」
火炎瓶。俺にも作れるだろうか。
「レシピを売ってくれ」
「危ないからなあ・・・まあ、助けてもらったからいいよ」
おお! いい人だ。
「で、リーナは無事だったのか?」
「ああ。大丈夫だ」
二人は安心したように息を吐き出した。本当に知り合いらしい。
「俺は明日あの街に入るつもりだが、どうする?」
「俺たちも連れてってくれ。一度補給が必要だ。後はまあ、戦うしかない」
「私も補給したい。できれば街に入らずここで食い止めたいが」
「わかった。食料は俺のを分けるから、とりあえずこの兄さんを街に連れて行くよ」
そう言って俺は年の近そうな方の腕をつかんで歩き出した。ついでに携帯食を投げ渡す。
「朝には戻るから、適当に近くにいてくれ」
え? と首を傾げた男たちを無視して、俺はまた走り出した。
「ちょっ、まっ! 俺もう足がっ」
「さあ、急ぐぞ!」
俺の依頼達成のために!




