優しいお兄さん
「こんにちは、リーナさん。先程もお会いしましたね。僕はフレスカっていいます」
その人は、さっき対応してくれた受付の人だった。
このギルドでは珍しく線の細い綺麗で素敵なお兄さんだ。きらっきらした緑の髪が印象的すぎるけど、声も綺麗だから驚く。
そうか、フレスカさんっていうのか。おぼえておこう。
「リーナです」
ペコリと頭を下げると、フレスカさんが私の頭を優しく撫でた。
この世界で私を撫でる人は、決して多くはないので驚いて固まってしまう。
「ふふ、お利口さんですね」
鈴が転がるようというのはこういう人を言うのだろう。
「え・・あ・・・・あの・・・」
「あ、すみません。勝手に女の子の頭を撫でちゃ駄目ですよね。つい、僕、兄弟が多くて小さい子にはついやっちゃうんです。嫌でしたか?」
いやもう眼福、じゃなかった。笑顔が眩しいよフレスカさん!
「う、ううん。でも、わたしの髪、いやじゃないの?」
この髪のせいで色々あったから、今でも隠しているんだけど。
「どうしてですか? こんなにきれいな錦糸のような髪なのに。僕、好きですよ?」
しゃがんでニッコリ笑ってくれるフレスカさんは、嘘を言っているようには見えなかった。
「でも、私の髪・・・黒いのに・・・」
「ご存知ですか? 遥か東の国では黒い髪の人も、黒い瞳の人も、たくさんいるそうですよ。髪や目が黒くてもあなたが魔物だという証拠にはならないと思います」
それはそうだ。そうだよね。なに言ってんのって感じだよね。
今まで、この街の人の中で黒い髪も、目も全然見てこなかった。だから皆が私を厭うのは仕方がないと思っていた。
あのトトリの日、父が私は七歳だと言ってくれたのに。子どもでいても良いんだと思えたはずなのに。
私はつい、まわりに流されてしまう。
フレスカさんは私の頭をもう一度撫でてくれた。父とは違う優しい手。こんな風に撫でてくれる人は今までいなかった。
知らず、涙がぽろぽろこぼれてきて、ぬぐっても、ぬぐっても止まらなくて余計に困った。
「ああ、駄目ですよ。そんなふうにしたら顔に傷がついちゃう」
優しくそっと、綺麗な白いハンカチで涙を拭いてくれるフレスカさん。
何この人、王子さまとか言っても驚かないくらいスマートなんだけど。
「フレスカ、お前だって卑怯だぞ。美味しい所もっていきすぎだ!」
「・・・いいじゃないですか、こんなに可愛い子をいつも独り占めしているのは隊長ですよ」
隊長?
「あ。僕も、見守り隊のメンバーだからね。あの人は隊長って呼ばれているよ。ちょっと変態っぽいけど実は凄い人だから安心して」
今のは聞きたくなかったかもしれない。いやさっきもそんなこと言ってたけど!
あなたもか!
そんな会話をしていたら、他のメンバーっぽいのもじりじり近づいて来た。
「二人だけずるい」
「俺らもまぜてくれ」
「いいなあ」
なんか皆両手を前に出してゾンビみたいな動きで近づいてきて怖いんですけど!?
「あ、大変だ。お茶の用意をしなくっちゃ!」
そう言うと、フレスカさんが私を抱き上げていきなり高速で歩き出した。
走ってそうなスピードだけど歩いてる。なんて器用な!?
「ふふふ、僕、お茶を淹れるの上手なんですよ」
いやいや、その前に色々突っ込ませて!
と、考えているうちに本当にお茶を淹れられてしまった。ちなみに今はギルドマスターのお部屋らしく、後から追いついてきたアーシェが呆れた顔で彼の淹れたお茶を飲み始めてしまったから何も言えなくなってしまった。
目の前に置かれたティカップに手を伸ばす。少し離れた場所で優しく目を細めるお兄さん。ほんのり甘い香りに誘われて口をつけると、カップを持つ指先から、そして口の中からと暖かさがじわじわ広がった。
甘い香りはどうやら蜂蜜のようなものが入っているらしい。美味しくて優しい味が癖になりそうだ。
「おいしい」
「・・・よかった」
にこにこ笑うお兄さんがまた私の頭を撫でてくれてとても良い気分だ。
思わずこちらもにこにこ笑ったら、お兄さんがこれでもかと甘い顔をする。
いやだこの人、ホストとかになったら億稼げるんじゃないの。大人になったら貢かもしれない。
そんなバカなことを考えていたら、傍で私の動作を真剣な顔で見ているアーシェには気付けなかった。