笑いすぎて腹が痛い経験は初めてです sideネッド
「くっ」
俺は思わず口元を押さえた。
ずっと我慢していたが、もう限界だ。
「と、トイレで死ぬってどんな・・・ふっ・・・くっ・・・」
ここはさらっと流すべきだろうとわかっていても、想像したら笑えた。そして必死に笑いをこらえすぎて、腹筋が悲鳴を上げている。
「え、ちょっと。まさか笑ってるの? え、そこで?」
「想像でき過ぎて笑えますよ! 俺を笑い死にさせるつもりかあんた!?」
もうだめだ、と叫んでげらげら笑い始めた俺を、リーナはなんとも言えない顔で見ている。
「ひどい。なんでよりにもよってトイレで笑うのよ!」
「いや、あんたならあり得る」
ひどい! ともう一度叫んで、俺の胸や肩を小さな手が叩いていく。
本当に小さい手だ。
「というか、実年齢はもっと上だと気付いていましたが、まさかアレクと同い年でとは。ノアともだいぶ近いですね? 明日からはもう少し距離を置くように」
「もうっ、そういうことよりも他にもなんかあるでしょ!?」
「そうですね。十五歳なら俺が一緒に寝るのはやはりマズいですね。今度から別にしましょう」
「大丈夫よ。戸籍上まだ十歳よ!」
「五つもサバをよむのは犯罪ですよ」
え!? と驚いた顔で固まる彼女に、また笑ってしまう。
そうして怒っていろ。あんたが悲しい顔をするぐらいなら、怒っているほうがいい。
また俺が笑うと、困ったような顔で下を向いた。
「言ったでしょう? 俺は、信じるって」
「・・・うん」
ぽたっと音がして、黒いキラキラした瞳から雫が落ちていく。
もしかして怖かったのだろうか。俺が信じるわけないと、心では思っていたのだろう。
だが俺はもうずっと前に決めたんだ。
この小さな女を守ると。それは体だけじゃない、心も守りたいんだ。
両の掌で、透明で綺麗な涙を何度もぬぐってやる。こいつは声を出して泣くこともできないから。
「信じてくれて、ありがとう」
小さな、とても小さな声が零れ落ちた瞬間、俺は溜まらず小さな体を抱きしめた。
「話してくれて、俺を信じてくれて、ありがとうございます」
お嬢さんは泣き虫だな、そう言えば、泣き顔のまま彼女は笑った。
「あなたがこうしたのよ!」
「俺が泣かせたんですか。それは下半身にくるセリフですね」
ニヤリと笑ってやれば、うっと呻いてゴシゴシ目元をぬぐったかと思うと慌てて離れて行った。残念だ。
「まあ、九つのガキが、初めての月のモノで面倒そうな顔をした時点で、こいつはただのガキじゃないとはわかっていたので、今更泣かなくていいですよ」
「おバカ!」
先ほどまで抱きしめていた枕を思い切り投げつけられた。
リーナの熱がうつり温かいそれを、俺はそっとベッドへ戻した。
「まあ、安心してください。あなたがもう少し大人に見えるようにならない限り手を出すことは絶対にありませんよ」
「見えるようになっても出さなくて結構よ」
じとりと睨まれて、また笑ってしまった。
「それにしても、実際生きてきた時間は俺よりも上なんて・・・時々変な考え方をすると思っていましたが、年齢を重ねるって残酷ですね」
「どういう意味よーっ!」
むきーっ! と叫ぶ姿を可愛く思うなんて、俺はもうダメかもしれない。




