お話ししましょう
どう説明したものか。
うーん、と悩んでいると、ネッドはわたしが全て話し終えるまで動かないって顔でこちらを睨みつけてくる。ちょっと怖い。
「ネッド、突拍子もない話だけど、きく?」
「そのために宿をとりました。朝まで時間はたっぷりあります」
あ、これは本気だ。
口の中のものをすべてお茶で流し込んで、近くにあったベッドに移動する。靴を脱いで上がり枕を抱きしめて、もう一度うーんとうなった。
「この枕堅いわ」
「堅いのがお嫌でしたら俺が抱きしめてあげましょうか?」
ちょっと冷めた顔をしたネッドに、すっと視線を合わせた。
「柔軟剤を開発しよう」
「意味が分かりませんが、商売の話なのは理解しました。で?」
で? が、一番低い声で、わたしは思わずぎゅっと枕を抱きかかえたまま上目遣いに睨んだ。
「俺には言えませんか」
「うーん。ネッドなら信じてくれそうな気がしてる」
「信じますよ。俺は、あんたの言うことなら信じます」
ネッド。時々わたしのことあんたって言うけど気付いているのかしら?
そういう時のネッドは、普段の取り繕った顔を全部脱ぎ捨てていて、少しだけ怖い。
きっと言葉にも嘘はないんだろう。
「・・・みんなに言う?」
「言いません。俺の今の主はあんたです。例え誰に命令されても、絶対に口を割りません。もし信じられないなら、喉を切りましょうか」
何それこいつマジ怖い。
「いらないわ」
「そうですか、残念です」
何が!?
「ネッド、こっちきて。長くなるからあなたも座って」
手を伸ばすと、ネッドは剣だこのできたゴツゴツした手を返してきた。音もなく私のすぐそばに座って、ジッとこちらを覗く。
「あのね」
それからわたしは、ぽつり、ぽつりと話し始めた。
前世トイレで死んじゃったこと、31歳の女がなぜか12歳くらいまで縮んだこと。気付いたら森にいて三人組の男に拾われ、たった数日で捨てられたこと。父さんたちに拾われて7歳で正式に登録されたこと。街で受け入れてもらえなかったこと、その間思ったことと、困ったこと。途中からはネッドも知ってるけど、知らないことも多かったみたい。
ネッドは最後まで静かに耳を傾けて、それからしばらく何も言わなかった。
こんな突拍子もない話を信じるはずがない。もし、わたしが聞く側だったら「よっぽど疲れているんだな。早く寝ちゃいな」って鼻で笑うだろう。
だから、ネッドが次に言った言葉に驚いたのだ。




