ネッドという男を観察したら sideノア
恐らくだけど、ネッドは凄く腕の立つ男なのだと思う。
常にリーナのまわりに気を配り、さりげなく彼女を助ける姿は板についている。
少々甘やかせすぎなのがたまに傷だけど、悪いことばかりではない。
リーナたちが僕らの街に来たのは一週間前。わずか一週間で僕らに溶け込んだ彼女は、しかし一部の人から嫌厭される存在でもある。
街を歩けば黒い瞳に黒い髪というだけで人は彼女を恐れる。正直バカみたいに思えるけど、毎年多くの人が魔物の被害に遭って死んでいるから、仕方がないのかもしれない。
だからと言って、彼女を攻撃していい理由にはならない。
僕らが住む街には冒険者ギルドの支部っぽいのがあるだけ。小さくて、ハッキリ言って強い力はない。時々訪れる冒険者のためのものだ。一応そこでも新しい依頼を受けたり、報酬を得たり、情報収集をすることはできるけど、規模は推して知るべし。
ふ、と視線を感じて顔を上げると、わざとらしくない、まるで自然な感じに視線を逸らすネッドがいた。
「ネッド、僕に言いたいことがあるならハッキリ言ってね」
「特にありませんよ」
嘘が下手すぎる。
「リーナに関する教育理念の不一致の件ならば、僕も残念に思うよ。でもネッドは甘やかしすぎだ」
「ちょっと待ってください。どうして教育理念を話し合う展開なんですか」
「え? 君が僕に話があるとすればそれだけでしょ?」
こっちは割と真剣に言っているのに、ネッドときたら、信じられないって顔で僕をみる。僕だって君の言いたいことなんてわからないから二人の共通点を探しただけなのに。
「で、リーナのことなんだけど。好き嫌いがないのは良いことなんだけど、どうにも食事に偏りがある気がしない? もうちょっとさ、きちんと考えて食事をとるべきなんだよ。まだまだ成長期なんだし」
「・・・それは、まあ」
「それに甘いものを好むのは仕方ないけど、毎回デザートつけてたら体が横に大きくなるよ」
「お嬢さんはもう少し大きくなってほしいじゃないですか」
「量の問題なの!」
やれやれって顔をするこの男が一番彼女を甘やかせているのだからいけない。
「あと、明日にはもう一度港に行くからよろしく。連絡船が来る予定なんだ」
「なるほど、護衛ですね」
「あと荷物持ちよろしく」
ネッドは一瞬動きを止めたが、しっかり頷いてくれた。
「ところでノアは、お嬢さんの同郷なんですよね。お嬢さんの国はどんなところだったんですか?」
会話がないからとりあえず適当に聞かれたって雰囲気だったから、僕は思わず答えてしまった。
「機械技術が発展した国だよ。食べ物もおいしいし。ここみたいに海にかこまれているんだ。あっちは島国だけどね」
「・・・へえ」
あれ?
「ノアは、よく崖から飛び降りるタイプですよね。教えてくれてどうも」
「え、あ・・・彼女に何か聞いたんじゃ・・・?」
「まさか。お嬢さんはもっと賢いですよ。ただ、お二人を見ていて気付いただけです」
ところで、と僕の耳に唇を寄せた男は低く、どこまでも底知れない声で囁いた。
「この街の生まれであるお前が、なぜそんなことを知っている?」
ネッドの声が、いつまでも頭を離れなかった。




