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これは優しいお話です  作者: aー
プロローグ
1/318

始まりは拉致から

 働き過ぎで死んだのは覚えている。

 死因は過労死。場所は職場の女子トイレ。享年31歳。

 いきなりくらっときて、気づいたら死んでいた。私を見つけた人、本当にごめんね。トイレがトラウマにならないといいけど。

 で、だ。気づけば何故か広大な自然の中ポツンと立っていた。

 なぜか12歳ぐらいの少女の姿で。

 やっば、この頃の私こんなに細くて可愛かったんだ。腹の脂肪が全然ないじゃん! しかもお肌つるっつる! とか、見渡す限りの木、木、木、そうか。天国は森の中にあったのかと現実逃避をしていたら、勇者と名乗る一向に拉致・・・げふん、違う、拾っていただいたのが六日前。

 しばらく様子を見ようと彼らを観察していたが、ある朝突然置き去りにされたのがさっきの話。

「これだけの食糧があれば三日は生きていけるだろう。運がよければ冒険者に拾ってもらえるかもしれない。頑張りなさい」

 ごつごつした手の男性は、苦い顔をして私に麻の袋を差し出してそう言っていた。

 中身は干し肉と堅くて噛めない黒いパン。

 ・・・腐ってないのか、このパン。

 考えても仕方がないので水場を探して歩き出した私は、今まで歩いてきた道を少し戻って川に出た。水の確保は大事だよね。

 そう思ってしばらく水辺で涼んでいたんだけど、急に小雨が降ってきたからしょうがなく森の近くに戻って雨宿りを始めたら、今度は知らない男たちがあわてて飛び込んできた。

「ふーっ、あー、降られちまった!」

「でも水辺も見つかったし、良かったな」

「ああ、まったくだ!」

 何が楽しいのか、とっても良い笑顔で3人のおじさんが笑っている。

「あの・・・」

 私は思い切って声をかけてみた。

「!」

 おじさんたちは驚いたように目を見開いて、次に腰の剣を抜いた。

 ってなんでよ!?

「ひっ」

 私が驚いて一歩下がると、不審げな顔でおじさんたちがじりじり近づく。

「人間か?」

「いや、こんな場所にガキが一人でいるわけねえ!」

「魔物じゃないのか?」

 いやいや、何言ってんのよ。こんな可愛い女の子を前に魔物とか失礼すぎない? いや、可愛いから逆にそう思われたのよね、きっと。うんうん、前向きに考えよう。

「わ、わたし、置いて行かれたの。男の人たちに・・・・」

 勇者なんて言うとちょっと恥ずかしいから、冒険者風の男の人ってことにした。

「なんだと?」

 3人のうちの一人が怪訝そうな顔のまま私にじりじりと近づき、ゆっくりと、慎重に手を伸ばしてきた。

 確かめるように頬や髪に触れられ、肩に触れられた時はくすぐったくてびくびくしちゃったけど、おじさんはそれで人間だと信じてくれたようだった。

「こんな小さな子供を、こんな森の中に置いて行くなんて・・・・」

 茫然と呟くと、私が雨に濡れないように自分の上着をぬいで、それをかぶせてくれた。

 ちょっと臭かったけど、優しい人なんだな。

 空色の瞳が印象的な人。ごつごつした一見ゴリラだけど、優しい色だった。

「・・・出口、わかるか?」

「ううん、わからない」

 おじさんはジッと私を見つめて、ゆっくりと言葉を重ねた。

「お前、親は?」

「いない」

「名は?」

「リーナ」

 本当は、白石里奈っていうんだけど、この数日でリナという名前がいかに呼びにくいかを理解させられたので、とりあえずリーナと名乗っておくことにする。

「そうか、リーナ。俺達はこの森を抜けるつもりだ。一緒にくるか?」

 渡りに船!

「ほんとう? いいの?」

 限りなくうるうると瞳をうるませてカワイコぶってみる。すると効果覿面!

 オジサンたちは皆一様に頷いてくれた。

「ああ、こんな場所にお前を置いてはいけないよ」

 重いため息とともに吐き出された言葉の意味を知るのは、もっと先の事だった。


 勇者改め拉致犯に置き去りにされた直後、おじさん達改め冒険者のラティーフ・ボフマンという人に拾われた私は、二十日近くかけて森を抜けた。

 たった三日分の、それも最低限しか食料を持っていなかった私を三人は憐れんでくれた。二十日の間、まるで本当の保護者のように私を守り、たくさんのことを教えてくれた。

 どこまでも人の良い人たちだ。

 森を抜けてしばらく行った先には大きな街があった。

 この世界は魔物も魔法も冒険者も勇者も王様も存在する世界で、グランツ王国というらしいのだけど、この街は三番目に大きい都市で、祈りという意味のゲベートというらしい。

 ラティーフたちはこの街で冒険者をしていて、時々森を彷徨っている人を見つけると保護するのも仕事なんだって。

 私はまず冒険者たちが必ず集まるギルドと呼ばれる場所に連れて行かれ、怪我がないか体に異常はないか、身元はとたくさん質問を受けた。

 ここでわかったことは、私はかなり幼くみられているようだということ、周りから見ればせいぜい7つか8つぐらいの少女に見えること。肌や髪の色から近隣の国々よりも尚遠い場所からきたであろうことが推測された。いやまあ別世界から来ちゃったからね。というか転生なのか、転移なのかどっちだ。

 しまったなあ、RPG系のゲームとかよくわかんないからこれからどうすればいいのか全く見当もつかない。

 さてどうしたものかとぼんやり椅子に座っていたら、いつの間にかラティーフが私の前に跪いていた。

「リーナ、お前、俺の所にくるか? 男所帯でたいしたもんはない。だが孤児院よりはましだし、俺がお前を守ってやる」

 ぎゅっと握られた両手は痛いはずなのに暖かくて、何故か涙が出てきた。

「こい、リーナ。俺がお前の家族になってやる」

 私はただ、頷いた。

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