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7「時が止まっても殺す」

 俺は佐渡(さど) (たけし)。前世ではブラックSEだったぜ。

 連日深夜残業など当たり前。

 いつものようにデスマーチ、エナジードリンクとカフェイン剤漬けでヒャッハーしてたら、あっさりと過労死した。

 で、気付いたら目の前に天使がいた。マジびびった。

 天使はドキドといった。

 こいついわく、俺には実はものすごい素質があるらしい。その力を存分に異世界で奮ってくれと請われた。

 いざ転生してみると、確かに俺ヤバかった。

 まず半端ない身体能力を得ていた。具体的には、秒間100発のパンチを放てるほどだ。リアル百裂拳である。

 それからもう一つ。こっちはマジでヤバい。


 なんと俺は、時が止められるのだ。 


 あの時間停止能力だ。誰もが夢見るあの絶対無敵の能力である。

 しかも効果時間は驚きの30秒! 身体能力と合わせて強過ぎる!


 もうあのイメージしかなかったので、この能力は【ザ・○ールド】と名付けた。

 別にス○ンドは付いてないけどな! 俺がス○ンドだ!

 まさに最高にハイってやつだったね。効果時間で言えばソレより圧倒的に上だし。


 そして若干中二病の気はあった俺は、瞬く間に異世界に適応した。

 定番の冒険者ギルドに登録し、ついさっきはA級魔獣であるオーガロードを軽くぶちのめしてきたところだ。

 時間を止めて腹を拳でぶち抜くだけの簡単なお仕事だった。

 報酬はナロー金貨50枚だ。こいつでメスの獣人奴隷を買うつもりである。

 待ってろケモミミっ娘。今からモフるのが楽しみで仕方がない。


「よう」


 森を歩いていると、突然背後から男の声がした。男にしては高めの声だ。

 振り返ると、声のイメージ通りの少年がいた。

 いや、思ったのとは違うか。恐ろしく目つきの悪いところはまったく想像外である。

 しかし、こんなところで偶然はあり得ないよな。

 俺を待ち伏せしてたわけだろ。どういうつもりだ。

 すると、天使ドキドが教えてくれた。


 あいつこそが星海(ホシミ) ユウだと。


 あーなるほど。最近噂の『英雄殺し』さんでしたか。

 調子に乗って俺まで殺しに来ちゃったわけですか。そうですか。


「何の用かな」

「聞こう。お前は天使憑きか」

「いかにも。お前はユウだろ? 俺を殺しにきたわけだ」


 俺は自信満々に肯定する。何も恐れるものはない。


「話が早くて助かるな」

「死ぬのはお前だ。断言しよう。今からお前は何が起こったのかもわからないまま死ぬ」

「やってみろ」


 相手が悪かったな。お前の悪運もここまでだ。


【ザ・○ールド】! 時よ止まれ!



 ***



 私はユウから少し離れた位置で能力者の様子を窺っていた。

 どうやら奴は、私にはまったく気付いている様子はない。

 まあ普通はそうだよな。ユウがおかしいだけで。

 こうして直接対決を目にするのは二人目であるが……。

 私には能力者が何をやっているのか、さっぱりわからなかった。


 あいつは無駄に格好つけて変なポーズを取って、一体何をやっているんだ。

 馬鹿みたいに両腕を広げたりして。

 恥ずかしくないのか……?


 そして、対するユウはというと……うん?

 彼もまた様子がおかしい。


 おい。あの男、わざと動けないふりをしているぞ!


 しかもふりが完璧だ。呼吸すら止めて、まばたき一つしていない。

 わざわざユウがそんな真似をするということは、もしやそういう能力なのか?

 動きを止めるとか何とか。あの変なポーズをすると発動するのか?

 私に効かなかったのは……もしや補助の効果か?


 さっぱりわからないが。

 とにかく私にすら効いていないものが、もちろんユウに効いているはずがなく。

 まったく効いていないことなどつゆ知らず。

 男はへらへらした顔のまま、無防備にユウへ近づいていく。

 それが死への行進であることもわからずに。

 むかつくアホっぽい決め顔のまま、そいつは言った。


「ン、ンー。動けないだろう? 数々のチート能力者を殺してきたようだけどな、我が時止めの前では無力! 最強はこの世にただ一人! この俺だけさあッ!」


 何も気付いてない。

 終わった。バカだあいつ。


「死ねいっ!」


 最高に調子に乗ったまま、ユウへ拳をぶち込もうとする。


 ――ユウの強化のおかげで動体視力も遥かに向上しているからか、私には彼の動きが辛うじて見えるようになっていた。


 やはりというか。案の定というか。


 奴が勝利を確信した瞬間。


 黒いオーラを纏った手刀が、彼の首を一発で刎ねた。


 皮肉である。何が起こったのかもわからないまま、男は死んだ。

 基本的にユウは、舐めたことはせず一撃で決める主義のようだ。


「油断し過ぎだ。いつでも殺して下さいと言っているようなものだぞ」


 相変わらずの冷たい死への手向けが添えられた。



 ***



 俺の元いた宇宙では、この手の時空操作系に対する耐性は『基本必須スキル』である。

 あれば強いというものではなく、なければ話にならない。

 当たり前のことではあるが。そもそも相手と同じ土俵に立てなければ、まともな戦いにはなり得ないからだ。

 結局一発で勝負を決めてしまうようなチート能力は、互いにけん制し合うことになる。

 並大抵の特殊効果は打ち消され合い、最後は純粋な戦闘能力での勝負になることも多い。

 そういう前提があるのだが、この雑魚は……。

 絶対無敵の能力のようにひけらかしてくるのだから、失笑するしかなかった。

 念のため「ふり」をして隙を誘ってみたが、結果としては要らなかったな。

 能力に溺れる者は能力に死ぬ。良い教訓になっただろう。


 もっとも、教訓を活かせる「次」があるかはわからないがな。



 ***



「何だかあっけなかったな」

「能力者相手にはあっけないくらいがちょうどいい。下手に長引かせると何をされるかわからないからな」

「それもそうか」


 この男のすごいところは、どんな格下やふざけた奴が相手であっても絶対に油断しないところだな。


「それにしても……こいつ、地球人だよな?」

「たぶんな」

「地球人というのは、どうしてどいつもこいつもふざけたのばっかりなんだ」


 数いる『英雄』の中でも、良くも悪くも自重しないのが地球人の特徴である。

 あの人生を遊びか何かだと思える精神性は、本当に真似できない。


「……一応、俺も地球人だ」

「そうなのか?」


 確かに黒髪童顔だが。

 あまりにも平均的な彼らとはかけ離れた雰囲気を纏っているので、違うのかと思っていた。


「確かにな。あまりにも頭の弱いのが多過ぎる。本当に同じ地球なのか疑わしくなってくるぞ」


 ユウは嫌な顔をしている。

 同郷の残念ぶりには、さすがに思うところがあるらしかった。

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