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詩集⑥

選ばれないって辛いよな

作者: 桜ノ夜月

「選ばれないのが辛いんだ」って、ずっと昔に君はそう言って泣いたね。


選考対象外の人にだけ返却されたポスターを、ぐしゃぐしゃに丸めて、君は声を殺して泣いていた。



ああ僕は、あの頃君が泣いていた気持ちが、痛い程によくわかるよ。



選ばれないって辛いよな。


君がアイデア出しから何からを、とても長い時間をかけて考えて、描いていたのを見ていたよ。


誰よりも真剣に、夜遅くまで描いて、描いて、描いて。「今年こそ」って笑っていたよね。


君のお母さんが君のこと、心配するくらい真剣に描いていて。僕はそんな君が、酷く誇らしかったんだ。


今年こそ君が、って、僕も思ってたんだ。僕は君の絵が、本当に大好きだったから。


でも、選ばれて名前を呼ばれたのは君じゃなくて。


するすると感情を失っていく君を、見ているのが辛かった。


なんで、君じゃなかったんだ、って。今年こそ君が、って、叫び出してしまいたくなった。


あの日、君は本当に落ち込んだ顔をしていて。僕も、「次があるよ」なんて言えなかった。



僕らは、三年生だったから。



一年が経って、君は就職して、僕は美術系列の大学に進学した。



君は本当に毎日忙しそうで、それでも、「楽しい」って笑ったね。



恋人が出来て、仕事もだんだんと覚えてきて、先輩も優しいって。毎日が充実しているって、君はそう笑った。



それが嬉しくて、でも、同じくらいに憎かった。



ねぇ、僕は、あの頃持っていた「何か」を頼りに、ここまで必死に歩いてきたのだけれど。



どうやらその「何か」を自分が持っていることすら、幻想だったみたいだ。



僕の「何か」はきっと、「あの頃」の基準で飛び抜けていただけ。


今回の課題こそ、って思っているけれど。毎回毎回、選ばれずに処分されてしまう。


嗚呼、あの頃の君の気持ちが、本当に痛い程によくわかるよ。


選ばれないって辛いよな。


素敵だって言われないのって辛いよな。


努力したのに、見て貰えないのは辛いよな。



痛い程によくわかるよ。



嗚呼、「何か」が羨ましくて、「持っている誰か」への嫉妬で狂いそうだ。


描いても、描いても、描いても身に付かないのは、やっぱり「才能」だったのかな。


嗚呼、苦しいよ。苦しくて、羨ましくて、おかしくなりそうだ。



こんな気持ちだったんだね。



ねぇ、僕は、僕自身が酷く嫌いになったよ。


酷く嫌いになって、憎くて、そして、失望した。


才能は喉から手が出るほど欲しかったし、描いても描いても選ばれない自分に苛立って、「嗚呼、もう居なくなってしまいたい」って、嫌になるくらいに思ったよ。


君が幸せなことが嬉しいのに、それを聞くのが煩わしいと思ってしまうような、そんな醜い人間になってしまったよ。


嗚呼、もう、苦しくて、羨ましくて、悲しくて、どうしようもないな。



選ばれないって辛いよな。




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