七話
―――――『ゴブリンの行軍』
その言葉が発せられると、この部屋の空気が一瞬だけ重苦しい雰囲気が漂った。
『ギルドマスター』の表情が、さらに険しくなった。
「厄介な問題だ」
『ギルドマスター』は深刻な声を洩らした。
「・・・『黒いゴブリン』と『蒼いゴブリン』が如何に厄介なのかはご存じなはず。
あんな厄介な体験をするのは二度と味わいたくもないので、『目撃しだい排除』しますよ」
ナナシは苦々しい表情を浮かべて応えた。
『ゴブリンの行軍』は、『ゴブリン』が変異した上位種で発生させる集団行動の事だ。
『黒いゴブリン』が、同個体を短期間で爆発的に増殖させる。
短期間で爆発的に増殖した『ゴブリン』をもう一種の変異した上位種『蒼いゴブリン』が統制と誘導を行う。
何万、何十万、何千万・・・局地的な爆発的増殖を繰り返し、整然と統率され軍隊の様な『ゴブリン』の群れは、狂瀾怒濤の勢いで行軍先にあるものを全てを劫掠する。
「聞く限りだと、その心配はない様だが」
『ギルドマスター』が尋ねた。
「その可能性は高くはないです。警戒は必要だとは思いますが・・・。こちらからは以上ですが、『ギルドマスター』、 俺とゴンザレスの『ジョブ』について、何かわかった事でありますか?
特にゴンザレスの方が非常に気にしているんで」
ナナシが告げた。
「残念だがギルドの資料を調べても、『召喚系剣闘士』と『銃士系召喚魔法士』の情報は見つからない。『レアジョブ』な事は間違いないが」
『ギルドマスター』が、申し訳なさそうに応える。
「 俺の『レアジョブ』の事はいいですよ。ゴンザレスの様に
人か何かを『召喚』するのではなく、刀剣類を召喚し闘える
事が 出来る事がわかっているんで・・・。ただ、ゴンザレスの『レアジョブ』の事は引き続き調査をお願いします。『召喚』してモンスターを倒したら、吐瀉物の様に口から金貨を吐き出す現象は異常ですから」
ナナシが告げた
「お前は吐かないのか?」
『ギルドマスター』が尋ねた。
「ゴンザレスだけですよ
俺たちの世界の人間が、全員金貨を吐くとか思わないでください」
ナナシがやれやれとした表情を浮かべながら応えた。
会話中に部屋のドアがノックされ、「入れ」と『ギルドマスター』が告げると、冒険者ギルドの受付嬢に連れられて、問題のゴンザレスが入ってきた。
「遅れて申し訳ありません。 ―――――ナナシ、これを受け取れ」
ゴンザレスがそう告げると、親指で何かを弾き飛ばしてくる。
ナナシは、それを右手でキャッチし、掌に収まったコインを見る。
それは白金で輝いていた硬貨だった。
「お前・・・これ・・・白金貨じゃねぇか・・・」
ナナシは、戦く様に応えた。
「それをバケツ一杯分吐いた」
ゴンザレスが短く告げた。
それを聞いた、ゴンザレス以外全員が引きつった表情を浮かべた。