五話
――――ナナシは、まだ吐いているゴンザレスを置いていき、
街に入った。
視界には、ここが『異世界』の街であることが証明されていた。
街を南北に走る大通りは、商人達の荷馬車や買い物客でごった返し、脇にずらりと置かれた
露店には、さまざまな商品が並べられて、道行く人々を楽しませている。
家や商店、宿屋、酒場、武器屋に防具屋―――――そして行きかう人々の姿の中には、『元の世界』にはいない人種の姿も少数混じっていた
そんな街の喧騒には眼もくれずに、ある場所に向かって歩いていた。
その場所に向かうにつれて、商店を練り歩いている人々の間には屈強な体格の者や、帯剣した
女の姿が見え始めた。
ある場所に近づくに連れて、その姿がさらに多くなってきた。
ナナシは、石造りの建造物に向かって歩いていく。
その建物が、ナナシの目的の様だった。
あきらかに一般市民とは違う屈強な体格で防具類を身に着けている集団とすれ違う中で、顔見知りでもいるのか、気軽な挨拶をして、二言、三言言いながらすれ違う。
その中でも特に親交がある者には、気の利いたジョークでも言ってゲラゲラと笑わせていたりした。
石造りの建造物の出入り口は、両開きの押し戸となっていた。
ナナシは、両開きの押し戸を開けてゆっくりと内に入った。
建物内には一般市民らしき姿はなかった。
そこにいる連中は、明らかに堅気の仕事に就いてはいなさそうだった。
正面の奥には受付があるのが見えた。
右には巨大な掲示板があり、大量のメモが張り付けられているのが見える。
また左手奥には、5~6人囲める木製のテーブルとイスが複数とバーカウンターがあるのが見えた。
その場所では、幾人か食事等をしているのが見えた。
食事をしている連中で、ナナシの姿を見た何人かが手を挙げた。
そこにも、ナナシの知り合いがいる様だった。
「注文した料理まだなんだがー」
その中で、1人がお道化る様な声で言ってくる。
「お客さん、おれ従業員じゃないんですよ 駆け出しの冒険者ですぜ」
ナナシも、同じようにお道化る様に応えながら、受付へと歩いていく。
その返答を聞いた、幾人かが噴出していた。
中には、酒を飲んでいた知り合いが盛大に噴出して小突かれている。