五十五話 異界⑤
50キロ近い装備を持って兵舎まで行軍・・・という無茶な事は例え召喚人でもさせるはずは
ないためか、『安岡力也』貌の召喚人は、バスを待たせていた。
バスに乗り込み向かったのは、まったく同じ建物がずらりと並んでいる中の大きな平根の建物だった。
見分けるには、入口の上に設置されている、そこに入る小隊番号が表示されている大きな
スクリーンを確認するしかない。
兵舎は、他の小隊と共有している様だった。
階段の両側のフロアが大きな一つの部屋になっている。
また、内部は全てが簡略化され機能的に作られているためか、殺風景だ。
『安岡力也』貌の召喚人に連れられ召喚人の小隊区画に入ると、部屋の両側の壁際に鉄パイプ
剥き出しの ベッドが並んでいる。
それぞれのベッドの前には、中央通路に面して2台のロッカーがあった。
「ベッドニオ前達ノ名札ガツイテイル。 自分ノベッドヲミツケテマットレスノ上ニ装備ヲ
詰メ込ンダ 背嚢ト雑嚢ヲ置ケ―――ハジメ!!」
『安岡力也』貌の召喚人が告げる。
連れて来られた召喚人は、自分のベッドを探そうと散らばると若干の混乱が生じ、喧騒を
満たすが、アルファベット順になっていることに気づくとその場で整列し待機する。
ベッドの頭部分でシーツと毛布と枕が小さな山となっていた。
『安岡力也』貌の召喚人の指示に従って、それから一時間かけて装備の荷ほどきをして、全てを
ロッカーに収納する。
『安岡力也』貌の召喚人は、小隊区画の中央に立ち、―――『ドナルド・サザーランド』貌の召喚人の
背嚢と雑嚢の中身を床に空ける。
そして装備品を一つずつ掲げて大声で名称を唱え、召喚人が装備の中からそれを見つけるまで待つ。
全員が同じものを掲げているのを確認すると、それをロッカーの何処にしまえばいいのかを説明する。
全員、ロッカーに装備を収納を終えると、『安岡力也』貌を食堂へ連れていく。
夕食は、『カツサンド』 『卵サンドイッチ』、『ビーフシチュー』の三種類だ。
召喚人は夢中になってがっつく。
ハリウッド貌の召喚人が、夢中になって食べている光景はいろいろな意味で凄まじい。
「サテ、今日私ノ話ヲ誰ガキチント聞イテイタカヲ確カメルゾ。建物ノ正面ニ三列デ集合―――ハジメ!!」
『安岡力也』貌の召喚人が、食事を終えた召喚人に有無を言わさぬ口調で告げる。
食事を終えた召喚人は、恐怖がこみ上げるを感じながらも貌を見合わせる。
召喚人の全員は、昼食も夕食も――――身体を動かす事はないだろうと思っていた。
特に夕食は――――たらふく食べている。
つまり、召喚人は不快なほど満腹だ。
「グスグススナッ!!」
『安岡力也』貌の召喚人がそう叫ぶと、蒼白な表情の召喚人が列のまま、食堂から出ていく。
ふぞろいな三列に並ぶと、『安岡力也』貌の召喚人は先頭に立って道を進み始める。
最初は歩きだったが・・・数歩で軽く走り出す。
「遅レルナヨ」
太くて低い凄味のある声で、『安岡力也』貌の召喚人が言う。
その口調からして忠告しているのではない事が明白だ。
『安岡力也』貌の召喚人のペースはさほど速くはないが、銃数分後、召喚人の胃が、バランスの悪い
釣りあい重なりの様に胃が上下に暴れ出す。
呻いたり咳き込んだりしながら、召喚人は必死で『安岡力也』貌の召喚人についていく。
その『安岡力也』貌の召喚人は息一つ乱れていない。
三十分もすれば、よろよろと道の脇へ寄って夕食を嘔吐する召喚人が出始める。
その時、『安岡力也』貌の召喚人が速度を緩めて歩き出す。
折り返す様に身振りで召喚人に命じ、道路脇で自分の反吐の上に上体をかがめて立っている、
『デニス・ホッパー』貌、『マイケル・ケイン』貌、『ヴィンセント・ドノフリオ』貌の召喚人を
囲ませる。
吐いた吐瀉物の臭気に耐え切れなかった半数の召喚人が、悪臭を放つスープをせっせと側溝に注ぐ。
「コレデ懲リタハズダナ」
『安岡力也』貌の召喚人が、楽しんでいるようでも悪意をいだいているようでもなく言う。




