四話
『ゴブリン』の群れから村人を保護し、避難するまでに『漆黒の銃士隊』を率いるナナシとゴンザレスは、『ゴブリン』を六十匹以上射殺した。
避難民を優先するためだった。
避難民と共に戻ってきたのは、ナナシとゴンザレスが主にこの『異世界』で、
活動拠点としている都市だった。
外部の脅威から防衛するためか、その街は10mほどの城壁で囲まれていた。
荘厳な門の前には 避難民の手当や緊急討伐に参加した冒険者から状況の聞き取りを
するためか、冒険者ギルド職員が大勢集まっていた。
避難民が乗っている馬車から、ナナシがおり、その後からゴンザレスがよろけながら出てくる。
「ゴンザレス・・もうちょいまてよ。この場で吐いたらヤバい」
ナナシが後ろを振り返らずに告げる。
その右手には、麻袋を持っている。
「わかっているが・・・もうそろそろ・・・」
真っ青な表情を浮かべ、右手を自分の口に当てている。
貌を顰めて、さらに何か言おうとした時、
小麦色の肌で、くすんだ栗色の髪ショートウルフの筋骨隆々とした冒険者ギルド職員が、大股で
歩いて来る。
左手には、バケツを持っていた。
周囲にいる避難民に時折視線を向けるが、足を止める事はなかった。
「どうだった?」
顎で荷台を指しながら尋ねてくる。
「 『黒いゴブリン』が一体。排除した証拠に」
そう言いながら、冒険者ギルド職員に麻袋を手渡す。
「やれやれ、またか・・・。これで何体目だ? ナナシ」
冒険者ギルド職員がそう尋ねた。
ナナシが何か言おうとするが、ゴンザレスが冒険者ギルド職員が持ってきていたバケツを
ひったくる様に取ると、よろめきながら離れていく。
「・・・詳しいことはギルドマスターに伝えるよ」
ナナシは、ゴンザレスの後ろ姿を見ながら応える。
「わかった」
小麦色の肌の冒険者ギルド職員が告げた。
何か言おうとした時、『緊急救援』に随行していた冒険者ギルド職員が小麦色の肌の冒険者ギルド
職員に、近寄ってきて一言二言、小声で言葉を交わす。
貌を顰めながらさらに小声で交わすと、『緊急救援』に随行していた冒険者ギルドが離れていき、
ゴンザレスが立ち去った方へと向かっていく。
「彼は、いろいろと大変だな」
小麦色の肌の冒険者ギルド職員が苦笑いを浮かべながら告げた。
「まぁ、確かに・・・いろいろと大変だ」
ナナシと小麦色の肌の冒険者ギルド職員がどのような会話をしているのか、ゴンザレスには考える余裕はなかった。
よろめきながら、人気のない城壁の近くで蹲るなり、ひったくる様に持ってきたバケツに嘔吐し
ていた。
・・・嘔吐しているという表現でいいのかわからない。
彼の口からは、コインがジャリジャリ・・っと音を出しながら吐き出されている。
『元の世界』で流通しているコインではない。
この『異世界』で流通している通貨だ。
その通貨・・・金貨がバケツに一杯に貯まる。
ゴンザレスは、ゆっくりと立ち上がり振り向いたとき、丁度、『緊急救援』に随行していた
冒険者ギルド職員が近づいてくるのが見えた