四十二話
レンガ色の波が山林道を進んでいた。
醜悪な殺意をまき散らし、大地を揺らすが如く全力で突き進む集団は人ではなかった。
剣や槍、石斧や槌矛を握りしめ、体を守る防具を身に着けた何十万のゴブリンの集団だ。
地面を数千メートルに渡って、規律良く足並みを揃えた夥しいゴブリンが犇めいている。
その犇めく集団の中には、ゴブリン以外の様々な他種族の魔物の姿もあった。
「・・・もうすでに『ゴブリンの行軍』が発生している気がするんだけど」
木の枝から足元を流れるレンガ色の絨毯を眺めていた人影が、ぼそりと呟く。
絨毯の正体は、犇めき規律良く足並みを揃えたゴブリンの群れだ。
ゴブリンの群れは、剣や槍、石斧や槌矛を握りしめ、体を守る防具を身に着けている。
レンガ色の広がった絨毯は、一心に進み歩みを止めようとしない。
その絨毯の中には、ゴブリン以外で大型、中型、小型といった体格の様々な種族の魔物の姿もあった。
目視で数えようとすれば馬鹿らしいが、大方の予想では、ざっと数十万規模だ。
並大抵の精神では、この異様な光景を見せつけられると、動揺と混乱、何よりも筆舌しがたい
恐怖を感じ、観察どころではないだろう。
だが、この異様な集団を木の枝から監視していた人影は、並大抵の精神力の持ち主ではない。
その人影は、衣服を纏わず全裸姿の――――ロドリゲスだ。
ロドリゲス―――――黄川田康義は、他の3人と同じく『特務課』に所属する
秘密武装警備員で、『元の世界』でも修羅場は経験し、場慣れしている。
4人の中で、黄川田は、従来の『特務課』の業務の他に、『元の世界』で開発され波及している
VRMMORPGで、人為的にデスゲームを引き起こす危険人物の排除|、デスゲームを
人為的に発生させるテロ組織の排除、救助業務に携わっている。
『元の世界』では、911以降の世界各国で発生しているテロの他に、VRMMORPG波及以降、デスゲームテロリズムが発生している
―――――黄川田はこれまで幾度も、デスゲームテロリズム事案を処理しているスペシャリストだ。
今回も『異世界』に来るまでに人為的にデスゲームテロを起こした、4つのデスゲーム・
シンジケートを相手に大暴れし、仮想空間に囚われたプレイヤーの救出に奔走していた。
その業務が終わり『異世界』へと来て、ゆっくりと出来ると思えば、大規模なゴブリンの群れの
対処が待ち構えていた。
「・・・まぁ、テロ組織と闘うよりは、ゴブリンを殲滅する方が楽だけど」
ロドリゲスは、不敵な笑みを浮かべながら呟く。
――――全裸で、そんな笑みを浮かべたら元の世界では、少なくとも社会的地位はない事だろう。




