二十六話
受付嬢に連れられて、一階フロアを見渡す事が出来る様にしてある関係者以外立ち入り禁止の扉を潜っていく。
階段を辿るように上階へと進むと、『ギルドマスター』の執務室前に到着した。
受付嬢は、扉の前に立つと軽く三回ノックする。
中からギルドマスターの声が聞こえる。
「『ギルドマスター』、冒険者のゴンザレス様がお見えになりました」
受付嬢が短く告げた。
「――――入れ」
扉の奥から響いてきた声を確認すると、受付嬢は扉を開け、入口の所で立ち止まる。
「失礼します」
ゴンザレスは、軽く頭を下げて一言声をかけてから受付嬢の傍らをすり抜ける。
部屋の中央に用意されたソファには、すでにナナシとオルテガの姿があった。
ナナシがゴンザレスに視線を向けて、何か言おうとしたがゴンザレスの鋭い視線を受けて
ゆっくりと『ギルドマスター』に視線を戻した。
ナナシが言おうとしたのは、間違いなく『異世界』だと問題はないが、
『元の世界』だと確実にセクハラに分類する。
受付嬢は、軽く頭を下げると外から扉を閉めた。
「まあ、座りたまえ。大方の話はこの二人と終えた」
『ギルドマスター』が言う。
ゴンザレスは、2人を一瞥するとソファの隅に腰を下ろす。
「 南部方面を統括している『冒険者ギルド』からのご指名だ」
『般若』の面を被っている人物―――――オルテガが低く渋みのある声で告げる。
いつも弄っているルービックキューブはない。
「場所は、南部近海のルイトリア島」
ナナシがさらに言う。
「その島内で、何かヤバい事でも?」
ゴンザレスは、『ギルドマスター』に視線を向けながら尋ねる。
「海洋貿易の中継点として栄えていた大小20ほどの島々からなる諸島だったが、ずいぶん前から
『ゴブリンの行軍』が発生している場所だ。
何とか島の北部で抵抗を続けていたみたいたが、連絡が途絶えた。
南部方面の『冒険者ギルド』も、もちろん救援準備しているが半年はかかる。
事情は、その島以外の南部一帯にもゴブリンの活動領域が存在しているためだ」
『ギルドマスター』が言う。
「わかりました。それは『漆黒の銃士隊』が指名されるわけですね」
ゴンザレスは短く応えた。
ルイトリア島を救援するには、『漆黒の銃士隊』単独で実行する事で、ゴンザレス、ナナシ、
オルテガの意見が一致した。
『ギルドマスター』の執務室での大方の事を聞き終えると、3人は『冒険者ギルド』の建物内にある
『黒い石碑』が置かれている部屋に入っていた。
「で、どう思う? ゴンザレス 救援を実施するには今から準備しなきゃならないが」
ナナシが尋ねてくる。
「 ここの『ギルドマスター』が、指名先の『冒険者ギルド』がもたもたしていると、島の全てがゴブリンの勢力下におかれるとせかしてくるから、なるべく早くと言っていた」
オルテガがさらに渋い声で尋ねてくる。
「わかってはいるが、その島内に少なくとも『黒いゴブリン』と『蒼いゴブリン』が複数確認されていると聞かせられたら、頭を抱えたくなるんだよ!」
渋い貌をしながらゴンザレスが応えた。
「オルテガ、お前の判断で救援実施するとしていつになる?」
ナナシが、『黒い石碑』の方へ歩いていたゴンザレスの後ろ姿を見送りながら尋ねる。
「今すぐにでも・・・・と言いたいところだが『召喚製造』での
航空機兵力の召喚、無料治療院のお手伝いで鍛えて追加された『航空母艦製造』の召喚準備をするとしても、早くても今週一杯はかかる。
来週に実行するのなら、もう準備に入らないと」
オルテガが渋い声で応える。
「わかった。そのことはあそこで『ステータス』を確認して、
何か虚ろな表情をしているゴンザレスに早急に結論をだしてもらうことにするか。
あいつの最大関心事は、『召喚人』の犠牲数だが、オルテガはどれくらいの数に登ると思う?」
ナナシが尋ねる。
「・・・20体」
オルテガが短く応える。
「俺は50体ぐらいだと思うが、いずれにしてもゴンザレスにはかなりの損害を覚悟してもらわないと
いけないかもしれないな」
ナナシは暗い貌つきで呟いた。
転移後から今までは『召喚人』の犠牲は出ていない。
2人の予想損害の多さをゴンザレスに話せば、今後の最大規模のゴブリンの活動領域がある
北部方面への展開を躊躇するかもしれない。
「 『召喚人』の損害数をどれだけ減らせるかは、自分にまかせろ。
航空機兵力で徹底した破壊を加えて、ゴブリンの抵抗力を削ぎ落してやろう」
オルテガが感情のない声で応える。
まるで地獄の底から聞こえてきそうな声だ。
「・・・島内陸部には間違いなく、複数の『黒いゴブリン』と『蒼いゴブリン』が待ち構えている
だろうな」
ナナシが貌を顰めながら言う。
「避難民の救助についても心配ない。死んでいなければ回復できる。
それに、『航空母艦製造』だけが追加された
わけじゃない」
オルテガは、ルービックキューブをポケットから取り出しながら応えた。




