おまけ①俺の人生のピークは小一でした。
こんかいは息抜きおまけ回です。
一章第二十九話あたりの続きだと思ってください。
はいおまけすたーと。
森全体を見渡せるほど成長した三千年級ドラゴンのペリー。
〖粛征竜〗と呼ばれたその希少種を討伐し、極まれにドロップするという召喚石を手に入れようと画策した珖代たち一行。目的通り召喚石を手に入れることは叶ったものの、ペリーはそのまま家族の元へと還された。
召喚石は入手ならなかったが、運値の記載されたステータスカードと新たなメンバー中島茂茂を手に入れた珖代たち一行は、数日かけて来た道をまた四日ほどかけて帰ろうとしていた。
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帰路二日目の夜。
日が沈みかける時間帯。夕食の時。
蝦藤薫がタッパに保存したシチューをナベに移し、火にかけ温め直してる間に五人は食事の準備に取り掛かる。三本の丸太をイス代わりに火を囲む六人と一匹は、シチューが温まるのを待ちながら談笑を始めた。
「突然だけどかなみ、また新たなスキルを発見しました!」
そう自信満々に言う少女の名は蝦藤かなみ。平たくいえば薫のチート娘。彼女は自分でも把握しきれない強力なスキルをたくさん保持していて、新しく気付いたスキルを伝えようと立ち上がった。
それに異様に食いついたのはリズニア。神様に追放された憐れでゲスでクズでポンコツで悪魔な元女神様は、子供のような純粋な瞳をキラキラ輝かせて詰め寄る。
「どんなのです!? 教えてください!」
そもそも、この女神が集めたチートスキルなのに、本人は何のスキルがあったか全然覚えていなかったりする。
「スキル名、┠ 限定回帰 ┨。掛けられたヒトは一定時間、全盛期の頃の姿や感情になれるスキルだよ」
「全盛期? 流石チートスキル……」
元トラック運転手の喜久嶺珖代が関心したように呟くと、それをかき消す勢いでリズニアが手を挙げた。
「はいはい! はい! 私にかけてくださいカナミン!」
「まあまあ落ち着いて。実はもう、かけてるヒトがいるんだよねー」
そう言ってかなみは、今回の旅に同行した行商人と目を合わせた。行商人はこの異世界ならどこにでも居そうな普通の顔をしている。
「ええ、あっしは今も掛かってますよ。お嬢さんには助かってます」
「はー今もですか」
よれよれのネクタイを直しながら不思議そうに口にする中年新人中島。
珖代が行商人に訊ねる。
「にしては、旅立つ前とお変わりないようですが……?」
全盛期という触れ込みのハズが、行商人は出発前と一切容姿が変わっていなかったのだ。強いて云うなら、少し元気になったくらい。
「それはあっしの全盛期がまさに今だからですよ。まだまだ現役バリバリですよあっしは」
「なるほど。じゃあ、助かった、というのは?」
「最近、腰痛に悩まされていたんですが、それがびっくり治っちゃって。お嬢さんには感謝しかないですよ。それでも効果が切れると痛みが戻っちまうんで、定期的に掛けてもらってたって訳なんですよ」
「一時的に怪我を治す能力として使ってた訳ですか。全盛期にはそういう使い方もあるのか……」
「はいはい!次わたし次わたしです!」
「わかったわかった、はい┠ 限定回帰 ┨」
かなみは投げやりに掛けた。するとリズニアは突然の煙に包まれた。一同が見守る中、やがてリズニアは姿を現した。一見すると全く変わっていないが、本人は目を丸くしながら両手を強く握り叫んだ。
「うおおおおおおおおお! なんだか元気が湧いてきましたよぉぉぉぉおおお!!」
「かなみちゃん、あんま変わってない気がするけどお兄さんだけ?」
珖代が冷静にそう判断すると、隣で寝転ぶセントバーナード犬も同感のように吠えた。かなみは小首を傾げる。
「んー。リズも今が全盛期なんじゃない? とくにケガもしてなかったから分かりづらいけど、やる気に満ち溢れてる時って感じがするよね」
「肉体的だけじゃなく、感情的な全盛期も再現するのか……」
少しずつスキルの全容を把握していく珖代を尻目にリズニアは立ち上がり、何やらストレッチを始めた。
「ちょっとそのへん走ってきます!」
「朝までに帰ってこいよー」
「気をつけてねー」
「うおおおおおお!」
こなれた感じに送り出す珖代とかなみ。軽く返事をしてリズニアは闇へと消えてった。送り出してしばらくすると、中島がおそるおそる手を挙げた。
「あのー……もし、良かったら私にも掛けてもらえないでしょうか?」
「いいよ!」
「おー、中島さんの全盛期ですか。俺も気になります」
「いやいや、そんな大したものじゃないですよ。私なんてたかが知れてますし……ちょっと、どんな感じか気になっただけですから……無理にとは言いません。はい」
年季の入ったスーツもネクタイも似合っているのに決まりきらない中年サラリーマンの全盛期に、そこはかとない期待が集中する。自分が注目を浴びる空気感を申し訳なく思う中島は下手に出ながらも、拒否することは無かった。
「あー旦那方、ちょっと待ってください。あっしの腰痛が再発しました。もしかしたら一度に一人までしか掛けられないのかもしれません」
行商人がそう助言するとかなみがもう一度掛けてあげようとするが、自分はあとででいいと中島に譲った。中島は頭を下げてお礼するが、この時、リズニアを心配する者は誰もいなかった。
「┠ 限定回帰 ┨」
再びかなみがそう告げると、リズニアと同じように中島が煙に包まれた。一同の注目度はさっきよりも高い。犬のセバスが片目を開けて見守るほどに。
やがて煙が晴れると、現れたのは随分と若さを取り戻した七三分けチェックシャツインメガネ男子だった。
服装まで変わった中島は顔の半分程を占めてる分厚い銀縁メガネ越しに目を大きくした。
「はぁ私です! 大学生時代の。……懐かしいなぁ」
当時の流行りなのか、それとも彼が冴えない青年だったのかは定かではないが、服装自体が変わったことに周りも驚いた。
「この頃は、周りで遊んでばかりいる連中をいつか見返してやるぞ! って気持ちで、勉強漬けの日々でしたが……結局、そういう人達の方が出世する世の中なんですよね……」
突然、負のオーラを纏った中島に場の空気は支配される。誰も何も良い返しが思い付かない時間が幾ばくか続くと「シチュー出来ましたよー」の合図が打ち消した。
謎の疲労感と倦怠感に襲われたリズニアがとぼとぼ歩きで帰ってきて一行は食事を取った。食べ終わる頃にはリズニアも中島も機嫌はすっかり良くなった。
「ごちそうさまですぅ」
「美味しかったごちそうさまー。それじゃ、次はどっちがかけたい?」
当然のようなかなみの提案に、まだかけてもらってない珖代と薫が目を合わせた。どちらも掛けて欲しそうには見えない。
「じゃあ、カオリンで! カオリンでお願いしますです!」
「まあ、ちょっとくらいなら……」
少し恥ずかしそうに言う薫にすかさずスキルが掛けられた。
またしても煙が全身を覆う。
皆が期待の眼差しを向ける。一番の視線を送っている珖代が無意識に唾を飲み込んだ。
──薫さんの全盛期。今でも十分綺麗だけど、一体どんな容姿をなさって……。
「うっそ、なにこれ。なっつ。肌のハリとか超ヤバいよ」
現れたのはポニーテール姿の薫。見た目的には普段の落ち着いた様子は薄く、大人になったかなみを安易に想像できる活発な美少女という印象だった。なにより──、
「お母さん、その服ってもしかして」
「え、そうそう。バレー部だったからね、あたし。これ大会の時着てたウェアだよー。うーわ、また着れる日がくるとか、思いもよらなかったわー」
「カオリンの貴重な生足です! クンクン!」
「こんときはさー、カラダも柔らかかったんだよー、ほら!」
蒸気機関のように鼻から煙をだすリズニアの目の前で、薫はさっと片足を上げて顔の横に添えた。I字バランス。
いかんなく発揮される生足や、開脚しながら屈んだ薫の谷間に男性陣三人の目は吸い込まれる。
「な、なんだか、悪いことしてる気分になりますね……」
「眼福、眼福。拝んどきましょうや。ねぇ旦那?」
「……。」
珖代は呆然と口を開いたまま動かない。行商人に呼ばれても気付かない程度には夢中になっていた。
「旦那は虜ですか。ああいうのがタイプなんですね」
「えっと、珖代さん、やっぱあたしが足出してるの、変だよね……」
短いブルマを少しでも伸ばして足を隠そうとする薫。その仕草と乙女の表情を見逃さなかったリズニアが目を大きくしながら割って入る。
「はぁひぁ! カオリンフガフガ! その恥じらいたまんねぇなおい! ですよねこうだい!」
「……好きです」
「え?」
珖代の発言を誰かが聞き返した。それが誰だったかは分からない。
「無意識に告白なんて、やりますね旦那」
魅了状態の浮ついた状態ながらも、珖代の真剣な眼差しは薫を射殺すほど真っ直ぐだった。
「……もう、ずるいよ……普段、全然そんなこと思ってないクセに……。もー知らない! 珖代さんのばか……」
モジモジと顔を赤らめながら、されど満更でもなさそうに普段の毒を感じさせない薫が呟くと、何故だかリズニアのボルテージが最高超に達した。
「うっっぢィィ!! カオリンっ最高かよッッッ! ああ、あああ! ……走ってきてもいいですか?」
「旦那、旦那。そろそろ目を覚ましてください。なんか収集つかないです」
呆然としたままの珖代を起こそうと行商人は身体を揺さぶるがそれでも一向に戻ってこない。
照れ続ける薫。チラ見欲と戦う中島。走りだすリズニア。落ち込んで炎を眺めるかなみ。珖代が告白してからのカオスはしばらく続いた。
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「じゃあ、次はこうだいです!」
「いや、俺はいいよ……」
「えー、みんなやったんだしやろーよー。珖代の全盛期、かなみも気になるよ」
「わ、私も、喜久嶺さんの全盛期、見てみたいなぁ……なんて、ははは」
「自分の全盛期ですよ、旦那は気になりません?」
遠慮した後にもかなみ、中島、行商人が後押し。
「やるだけやってみたら、どうですか」
薫まで続いてしまったら、同調圧力に弱い男は簡単に折れてしまう。
「分かりました……じゃあかなみちゃん、お願いするね」
「おっけ、任せて!」
少女がスキル名を叫ぶと例に漏れず珖代は煙に包まれた。暫くし、現れた珖代に一同は目を疑った。
「珖……代さん?」
「はい。いかにも僕ですが」
「ちいちゃくなっちゃった……です」
一番小さかったかなみと比べても頭半分くらい小さな珖代。これが珖代の全盛期とでも言うのだろうか。小さな珖代は顎に手を当て熟考した後、自分なりの考えをまとめた。
「なるほど。小一の時の僕ですか。確かに、この頃は神童なんて持てはやされたこともありましたし、ちしき面でもあるていど優秀な部類だったかもでしれませんね。なんらおかしくはありません。しかし、六歳七歳がピークなんて認められませんっ。かなみちゃん、もう一度僕にまほうをかけてください」
小さな珖代は怒ったように頬を膨らませながら少女に近付いた。すると、ゆっくりと一同が珖代のそばまで寄ってきた。
「ん、どうかしました? みなさん」
「「「「か、かわ……」」」」
「可哀想だなんて、思わないでください。そう思われるのは、キラいなんです……」
小さな背中を、より小さく丸める珖代に女性陣は我慢の限界を迎えた。そしてとうとう──、
「「「かわいい〜!!」」」
ほぼ幼児となった珖代に抱きついた。
「なに、このかわいい生き物〜! 珖代? これホントに珖代?」
「はぁ〜……こんなに可愛かったんですねぇ。ほぉらお姉さんがよーしよしよしよしよしでーす」
「ヤバい、仰げば尊死なんですけど」
各々が興奮抑えきれずに珖代を撫で回しまくる。何故か全盛期口調の薫までも抱きしめようと襲いくる。
「や、やめ、はなしてください! 見ためはこうでも、中身はいつも通りの僕なんですから〜!」
「え、やなんですぅ?」
後ろからギュッと抱きしめ、いじわるにリズニアは質問を返した。珖代はペースに乗せられつつも、毅然としてみせる。自分なりに。
「や、ヤって言うか……、恥ずかしくないんですかっ」
「珖代は恥ずかしいのぉ?」
珖代を奪い取り膝枕するかなみは子供をあやすような口調で聞いた。
「は……恥ずかしいですよ。そりゃ」
「はい、うちの子確定ー可愛すぎ」
おちょぼ口で俯きながら本音を口にした途端、薫が抱きしめ膝に座らせた。薫の豊満な胸に呼吸すら奪われかける珖代は必死にもがきながら助けを求める。──中島と目が合った。
男性陣二人は他人事のように遠くから眺めるだけに留まる。別に羨ましいから手を差し伸べないのではない。三人の母性の偉大さと恐ろしさに動揺して動けなかったのである。セバスまで珖代の顔を舐めにきている始末。
「喜久嶺さん……。このくらいの時期が一番、母性をくすぐるんです。諦めてください」
「なぁるほど。今の旦那を見てると股間がムズムズするのは母性なんですねぇ」
「……え?」
その後。
珖代の幼少期は《神童モード》と呼ばれ、何度か世話になることに。
普段よりも頭が冴え賢くなるモードとはいえ必要に迫られた時だけの使用を頼み込んだ珖代は、月一ペースで子供に戻され、今のところ婦人会に誘拐される活躍を見せている。
いっそのこと犯人追跡メガネと蝶ネクタイ型変声機を持ってこいと自暴自棄になるがそんなものはない。決してそんなものはないのだ。決して。
あれから約一年。
《神童モード》が役に立った試し……今のところなし!
いかがだったでしょうか?
ボツになった一章終盤の日常パートですが、実は二章第三十二話のとある内容が細かくなっているだけなんです。ですから既視感があった人も中には居たのではないでしょうか。
このタイミングで入れたのはこうだいの過去に踏み込めたからというのが大きいですね。(勇者ヨシヒコっぽい展開になっているのは終わってから気付きました……)
という訳で次回はちゃんと本編に戻ります! ちなみに作者は感想を求めるアンデッドです。
(´⊙ω⊙`)ヨロシクヴァー
お願いいたします!




