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第三十、一話 元中年サラリーマンの意思

祝! 投稿開始から今日でちょうど一周年!


ヽ(`・ω・´)ノ イェイ!!


それを記念してちょっとしたスピンオフの公開です。

とはいえ、話は前後しませんし主人公がいつもと違う人なだけです。

がっつり本編ですので読んで!


意外? な人の活躍にこうご期待!


 

 

 

 

 ─────中島 茂茂(しげしげ)

 

 

 

 

 彼はごく一般的な家庭に生まれ、一般的な大学を卒業し、一般的に就職し結婚し、一人の娘を持つごくありふれた家庭を築いていた。

 

 男はある日、リストラされた。

 

 会社の中でも最底辺のポストについていた自覚があった男は、決して多くは望まず、自身の地位に不満を持つこともなく、与えられた仕事を日々こなし、たまの金曜に同僚の愚痴を聴きながら潰れない程度に酒を飲む生活を送っていた。


 そんな男が不況の煽りを受けてあっさりと切られてしまったのだ。

 

 男は自分の価値を低くみていた分、すんなりとその事実を受け入れた。だがそうして家族のことを考えたとき、ある不安が爆発的に膨らんだ。

 

 

 ──話せない。

 

 

 五十手前の男が会社をクビになったことを妻や娘が知れば、きっと家を出ていってしまう。

 妻には愚痴を言われることが多くなり、娘とは半年以上会話をしていない。それでも、家庭が崩壊する事だけは何よりも恐ろしかった。

 

 

 故に、二年黙った(・・・・・)

 

 

 次の仕事が見つかるまでは黙っていても問題ないと捉えていたが、次の仕事を見つける──それがなかなかどうして出来なかった。

 

 求める条件の仕事が見つからない。それは男の能力不足というより、歳をとり過ぎたことが大きかった。気付いた時には貯金が底を尽き、それまでの生活は二年で破綻した。

 とうとう借金を背負うハメになり、ようやく妻や娘に誠心誠意の謝罪を込めながら全てを話した結果、妻は娘を連れて家を出ていき、家庭はあっさりと崩壊した。

 

 

 ──多くは求めなかった。

 


 最低限かつ安定した質素な暮らしが送れれば満足だと、幸せだと感じていた。

 

 なのに。

 なのに、小さな幸せすらどうして全部こぼれてしまったのか。

 

 一体どこから間違(くる)ってしまったのか。

 

 どれだけ考えても失ったモノはもう戻ってこない。

 

 いっその事、死んでしまおうか──。そこまで思い詰めてぼんやりとしていた罪の意識は、目の前で交通事故が起きたその瞬間に覚醒する。

 

 「あれ、私はいま……」


 見知らぬ土地の見知らぬ横断歩道の前に男はいた。そして、大型トラックが電柱に衝突し女性が巻き込まれる瞬間を目撃した事を思い出す。

 

 折れた電信柱。

 ひしゃげた運転席。

 地面に広がる血溜まり。

 それら一瞬の出来事の数々。


 やがて数人の男女が集まり、下敷きにされた女性を助けようとトラックを揺らし始めるが、男は動けずにいた。

 

 求めていたのに、恐れてしまったからだ。


 “死”を──。


 逃げ出したい気持ちと逃げたくない気持ちと助けたい気持ちと助けてほしい気持ちが混ぜこぜになり、立ち竦んでしまう。

 そうこうしていると、トラックを揺らす明らかにカタギではない男から下を見るように指示され、女性の他に少女が下敷きになっている事を知る。

 

 それを伝えた直後。電柱から出る火花が漏れたガソリンに引火しトラックは炎上、爆発した。

 

 この事故が原因で異世界に転移した中島茂茂は、懺悔と贖罪の一年半を過ごし、今、新たな局面に立とうとしていた──。

 

 

 

 

 「中島、アナタ本気?」

 「はい。私が責任を持って届けに行きます!」

 「……そう」

 

 “ニセモノ”の魔女は中島の本気を言葉以上にそのほんしつを見て信用した。

 

 「クローフ、それを中島に渡してあげて」

 「あ、はい」

 

 中島は幾何学的に光りを放つ石を受け取ると、渡した少年クローフと、渡されず嫉妬する少年レクムとを交互に見る。

 

 「レクムくん、気持ちは分かるけど、キミはお家に帰ってお母さんや弟達を守ってあげてください。怖い事があったらいつでもおじさんやここにいる皆に相談してくれていいから。それからクローフくん。おじさんは一度、自分の役目から逃げてキミに辛い役目を任せてしまったことがあったね。下手をすれば、キミの心に一生消えないキズを付けてしまうような酷いことをした。私がした事は簡単に赦されることじゃないと思います。けど……いや、だからこそ、今度はおじさんがキミの代わりを果たす」

 

 そう言って中島は目標の場所に体ごと向き直り、遠くの方を見ながら背中で語った。

 

 「おじさんのかっこ悪いところ、少し見ていてくれ」

 

 返事を待たずして歩みを進める男に、少し先にいた金髪碧眼の青年が声をかける。彼はこの世界に転生した勇者で、あの交通事故に居合わせた人物の一人だ。

 

 「……その先は戦場です。一度足を踏み入れれば簡単には戻って来れなくなる。それでも彼らの元へ行くんですね……?」

 「ええ、はい。優柔不断で他力本願な私を助けてくれて、しかも居場所まで与えてくれた彼らは、……そう、大切な──」

 

 多くの思い出が頭をよぎる。

 この世界で出会った大切な人々の記憶。

 命と生きる理由をくれた恩人たちの奇跡。


 顔にキズを持つ見た目に反して優しい青年。

 笑顔を絶やさず相談に乗ってくれる女性。

 何かあると気にかけてくれる小さくて賢い幼女。

 誰より明るく元気で積極的に受け入れてくれた少女。

 

 そう、彼らは──、

 

 「──私の仲間ですから」

 「行ってらっしゃい……どうか気をつけて」

 「どうか貴方も頑張って、勇者さん」

 

 その手に託された想いと石を握り締めて中島は走り出した。

 

 敵──。屍兵(アンデッド)軍、兵力五〇〇〇。

 味方──。傀儡(くぐつ)兵軍、兵力三千六〇〇。

 

 その戦場に足を踏み入れた瞬間、発砲音や鍔迫り合いの音が所狭しといたる所から押し寄せてくる。砂嵐という悪天候も相まって二メートル先の視界も確保できない中、ただひたすら前だけを見て手足を回し続ける中島。

 

 そんな中島には、転移する際に女神から賜ったヒトに誇れるチートスキル┠ 天佑(てんゆう) ┨がある。

 

 何もせず幸運になれるこのスキルのおかげで幾度となくピンチを乗り越えてきたが、このスキルは『本人の思いがけないタイミングでの幸運』でないと発動しない、一癖あるスキルだった。

 

 残念ながら無事に辿り着くことだけを願って走る現状下では『思いがけない幸運』を舞い込む事は難しく、┠ 天佑 ┨の発動は期待できない。それを知ってか知らずか中島は、スキルや自分自身のことよりもその先で待つ仲間の無事を祈ってガムシャラに走った。

 

 

 耳元を掠めた弾に身が縮こまる。

 

 

 大きく振る腕に剣が当たり肝が冷える。

 

 

 頭が飛んできて心臓が止まりかける。

 

 

 それでも足は止めない。諦めない。

 

 

 全力疾走は何十年ぶりで不格好なことこの上ない。さらに中年のおじさんでは十秒で息があがってしまう。

 

 

 それでも、それでも走るのを辞める理由にはならない。

 

 

 ┠ 天佑 ┨の力に甘え、何もして来なかった転移当時の中島の姿も。現実逃避の為に自殺を考えたあの頃の中島ももういない。

 

 

 怖さを打ち消す為に今すぐにでも叫び出したい。だが、絶対にバレてはいけないので位置を知らせるようなマネはしない。



 恐怖を噛み殺すように歯を食いしばる。

 

 

 ただ真っ直ぐ。目指すべき場所を見失わない為に真っ直ぐ走る。

 

 

 恩人の為に。未来を切り開く為に。なにより、仲間の為に──。

 

 

 何度もコケそうになりながら、汗だくになりながら、どれだけ息を切らそうとも荒野を走り続ける。

 

 

 その瞬間、その姿は、誰よりも輝いていた。

 

 

 幸運の加護を持つ男は自分の意思で行動しそして、自らの意思で奇跡を勝ち取った。

 

 

 「喜久嶺(きくみね)さーーん!!! ……かなみちゃーーーん!!!」

 「な、中島さん!? どうしてここに?」

 「はぁ……はぁ……これでっ、戦いを終わらせましょうッッ……!!」

 

 沢山の人々の想いが詰まったそれは遂に、次の世代に渡った。

 

 それを見た頬に十字の傷がある青年は意味を悟り、頭を下げた。

 

 「中島さん、あとは俺達に任せてください」

 

 若々しくも穏やかで決意に満ちた青年に、その(意思)は渡ったのである。

 

 「はい。では……あとは、頼みます」

 

 元中年サラリーマンは見事大役を果たし、膝に手をついて笑った。




────────────


 ──枯れない森──

 


 

 「モテゾぉ! おそいじゃんかぁ!」

 「大声は慎めソギマチ。誰がどこで聴いているか分からぬ」

 

 行方の知れなかったモテゾウは〈枯れない森〉のある地点でソギマチと合流をはたしていた。

 

 この場所が合流地点として指定された理由は、主に隠れやすく見つかりにくいという点があげられる。特に砂嵐が吹き荒れる時間帯に外を出歩いている者などいる筈はなく、別の誰かに遭遇する確率は限りなくゼロに等しい場所であった為だ。

 

 しかし──、その判断が彼らをある人物に引き合わせてしまうことになるとは、この時までは誰も知る由もなかった。

 

 「ふっ、怒られましたね」

 「そぉんな言い方はないだろー」

 

 怒られたソギマチをソギマチがあざ笑いソギマチがふくれた。

 

 「それで、戻ったのは二匹(・・)だけか」

 「うん……。〝聡明〟は助けられなかったし、〝知識〟は自分から囮になってソギマチ達を逃がしてくれたんだ」

 「だから二人で逃げてこれました。それと召喚石もこの通り」

 

 抑揚の少ない声の〝真心〟のソギマチが召喚石を両手に持って掲げた。

 

 「しかしひどいよなぁ……これ見つけたの〝知識〟なのに、それを囮にするなんてさぁ」

 「人聞きが悪い。あの子が石を見つけてはしゃいでコケて、足を挫いたから仕方なくです」

 

 〝真心〟が誰よりも冷淡で薄情なヤツだなと感じた〝技術〟のソギマチは溜息をついた。

 

 モテゾウは石を壊す工程に入る。

 モテゾウに召喚石を投げるように指示された〝真心〟のソギマチが軽く上に投げると、モテゾウがそれを一刀両断。

 すると召喚石は思いのほか簡単にスパッと割れてくれた。

 

 「「おーー」」


 武者による鮮やか剣技にソギマチーズから拍手が起きる。これでおもちゃの兵隊さんは消えた。

 

 モテゾウは召喚石があっさり切れすぎてために逆にソギマチが壊せなかったことを不思議に思ったが、ソギマチの力が四分の一になっている事を思い出し、そこはわざわざ触れないでおいてやろうと心の中だけで留めた。

 

 「それじゃあ 〝聡明〟と〝知識〟を助けに行きましょう」

 「だぁめ。二人がなんのために犠牲になったと思ってるの。今はアルデンテ様に報告に行くのが先!」

 

 他のソギマチと比べれば割としっかりしている方の〝技術〟が釘を刺すと〝真心〟が冷ややかな目を向ける。

 

 「この薄情ソギマチ」「よく自分自身に罵倒できるなぁ……」「魂は別々ですから」そんな元はひとりのやり取りが聞こえてくる。


 「ソギマチよ。その事なんだがな、あの少女のことだけは報告しないでいくぞ」

 「ん、それはどうしてですか」


 モテゾウの方針に疑問をぶつけるのは〝真心〟のソギマチ。

 

 「(それがし)は戦闘狂いと揶揄されることがあるが正直、その称号はアルデンテ様にこそ相応しい。あの方の大鷲(もさ)への執着心は“異常”の一言に尽きる。あの少女の存在を知ればきっと好奇心を抑え切れず厄介ごとを増やす。少女との戦いを望むことは必然。それだけは避けなければならない」

 「……それじゃまるで、アルデンテ様じゃ勝てないみたいじゃあない?」

 「相手は真の不死者だ。恐らく、あの方でも勝ちの目は薄い。決着が半永久的につかない可能性ももちろんだが、あの少女、まだ何かを隠している気がしてならない。我々では到底知る由もない、恐ろしい何かを」

 

 モテゾウはチート少女に睡るチートの片鱗まで感じとっていた。それは本人すら知らない潜在的なチートも含めてのことである。

 

 「それ思いました。あの子に追いかけられた時、何故か逃げにゃきゃってなってました。理由は……ソギマチの勘です」

 「うんうん。同じく勘かなぁ。……内緒にしなきゃだね」

 

 その時、三人に近づく足音が響いた。

 

 「あのー、すいません突然お声掛けしてしまって」

 「誰ですっ!」

 

 そう言って〝真心〟が振り向くと同時に二人もその人物を視界の端に捉える。そこにいたのは穏やかに微笑む女性だった。

 

 「このくらいの背の、男の子と女の子を見かけませんでしたか?」

 

 自分のワキの位置で手をかざし、背の高さを伝えようとする蝦藤(えびとう)(かおり)の姿であった。

 

 「モテゾウ。この人っ……!!」

 「ああ。──似ている。何処となくあの少女に」

 「ソギマチの勘。というか、匂いも似てるよ。絶対ヤバい……上手く説明出来ないけど、危険だ」

 

 そして、共通の感覚が三人の頭を支配する。

 

 ──(……此奴もまた)

 ──((化け物ッ!!!))

 

 二人のソギマチが戦闘態勢に入りモテゾウがカタナに手を掛ける。

 

 自分が警戒されている事を知ってか知らずか、薫は表情そのままに詰め寄る。

 

 「レクムくんとエナムちゃんって言うんですが、知りませんか?」

 

 彼女は既に強かった。それは何故か、微笑むその姿がまさに勝利の女神そのものだった──。

 

 ちなみに、エナムちゃんは男子である。

 



如何でしたか?

この話を読んで、中島さんが好きになってくれた人が一人でもいたらいいなぁ。(ノ´▽`)ノ


ということで二章はまだまだ続きますがよろしくお願いします!

目標は全・員・活・躍ッ!

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