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第二十七話 一難去らずまた一難

引き続きグロ注意。

懐かしのキャラ登場です。


 「そんな……オレの、オレのせいで……」

 

 綺麗に散らばった臓物をみて、冒険者の一人が膝から崩れ落ちた。

 

 彼は謎の剣士に無謀にも挑もうとしたことを後悔した。その行為によって、小さな命が一つ失われてしまったからだ。

 

 「ふざけんなぁぁ!! かなみちゃんを返しやがれぇぇーー!!」

 

 我を忘れた男がまた一人、無謀にも殴り掛かろうとする。

 仲間達はそれを必死に食い止める。

 

 「よせっ!! オレ達に適う相手じゃないだろ!! それに大事な目的もあるっ!!」

 「今は抑えろっ! かなみちゃんの事を思うなら、とにかく……!」

 「助けに行くんだ俺達で、他の子だけでも……」

 「ちくしょう。こんなのって、あんまりじゃねぇか……」

 

 周りから説得された男は、涙を飲んで引き下がった。

 

 「逃げる雛鳥に用は無い。何処になりとも飛び立つがいいさ」

 

 長身長髪の剣士ワシュウ・モテゾウは戦う気のない冒険者達を弱い者と判断し、刀を鞘に収めた。冒険者達は遺体も回収しに行けない弱さを噛み締めながらその場を逃げ出した。

 

 「逃がして良かったの?」

 「我々にも優先すべき事柄がある。召喚石の破壊だ。大鷲ならともかく、雛鳥に用はない」

 「ふーん、ちゃんとその意識あったのか」

 

 縛られたままの〝聡明〟なソギマチは、男の意外にも真面目な部分に関心する。

 

 「にしてもだ……。お前達三人はいつまでそうしてる」

 

 モテゾウの目線の先で、三人のソギマチは遺体に群がり何かをしていた。

 

 「うぅー! 胃かな……? これ胃かな……?」

 「さっきまで生きてたとは思えませんね」

 「触って大丈夫なのかそれ?」

 

 知識、真心、技術のソギマチはかなみの上半身から零れている内臓を不思議そうにつつく。

 

 「そういうのは苦手では無かったのか?」

 

 モテゾウの問いに代表して〝知識〟のソギマチが答える。

 

 「苦手なのは〝聡明〟のソギマチだけだよ」

 「そういうものなのか」

 「うん。別に好きって訳じゃないけど、グロいのって思わず見ちゃいたくなるんだよねぇ」

 「分かります」

 「分かるう」

 「なんでもいいから助けてよ!」

 

 聡明なソギマチに怒られた三人はしぶしぶといった具合いに立ち上がり、縄を解き始めた。

 

 「こうか?」

 「逆ですね。こう」

 「それこそこっちじゃない? あれ」

 「モテゾウ、先に石を探しに行っててくれぇ」

 

 縄を解くまで時間が掛かりそうなので、モテゾウは四人……もとい一人を置いて召喚石を探しに出掛ける。

 

 顔に入る謎のヒビにも気付かずに──。

 


 

────────────


 ──ユール──


 

 

 お食事処レクムでは、野菜の旨みの溶け込んだ甘くスパイシーなあるモノの匂いが立ち込めていた。

 

 日本人には馴染み深い味付けのカレーライスだ。勿論それは、ユールの人達にとって聞くのも初めてな食べ物。カレーが振る舞われた甲斐あってか、つい先程まで続いていた重苦しい雰囲気の会議場(レクム)が本来の食事風景を取り戻した。満腹はヒトを優しくする。

 

 それを初めて食べる重役達はその味に感動すら覚え、スプーンを持つ手が止まらない。カレーライスを街の新たな名産品にしたいとまで語った重鎮も中にはいたが、現状を考えそれ以上の話はまた後日という事になった。

 

 このカレーを作ったのは他でもない蝦藤薫。

 お昼時に始まった緊急会議でピリピリするのは分かる。だから彼女は食事で彼らの心を癒すことにした。

 

 作戦のために出て行った者たちが無事に帰ってくることを祈り、火にかけた寸胴鍋を丁寧にかき混ぜる。

 

 「カオリさん、もう一杯頂けますか」

 

 少食のユール町長が珍しくルーのおかわりを頼む。

 町長はパンにカレーをつけて食べるスタイルを大変気に入ったようで、テーブルの半数のパンが町長の方へ流れていった。それをうらめしそうに眺める者達もおそらくパン派なのだ。

 

 「おかわりはたくさん有りますので、皆さんも遠慮なくしてください」

 

 周りを気にし薫がそう言うと、米派数名がおかわりを所望した。パン派は町長の為にルーだけで自重する。レクムエナム兄弟がおかわり皿を受け取り厨房で薫がルーを装う。ほんの僅かではあるが、そこには穏やかな時間が流れていた──。

 

 その時、営業時間外の匂いにつられた一組の客が店に訪れた。

 

 「先生っ、寄り道はダメですってば……!」

 「邪魔するわよ」

 

 外套(がいとう)を纏った男女二人組が堂々と正面入り口からやってきた。女の方は態度まで堂々としているが、小さな男の方は落ち着きなく辺りを見渡している。

 明らかに怪しい二人組の登場に、レクムにいた者達が一斉に警戒を強める。

 

 真っ先に席から立ち上がったのは保安兵団長、オウルデルタ・ガードナー。

 

 「おい! 何者だ貴様ら」

 「観光客よ」

 「嘘をつけ。観光客は真っ先に避難させた。居るはずがない」

 「いい匂いがしたから何かと思って来てみたのだけど、アナタ達こそヒトの居ない街で何しているの?」

 「見ての通り食事だ」

 

 ガードナーは目を細めている。屍兵で無いにせよ、観光客と偽る者に気は抜けない。

 

 「先生、僕達は部外者なんですから先に名乗らないと……」

 「それもそうね」

 

 女を慕う男に諭され、女がフードを脱いだ。

 中からは長いブロンドヘアーが流れ出る。映る目の色は翡翠色、眠そうな半開きの眼。大人びているが、どこか幼さもある女。

 

 「私の正体についてはこう言えば早いかしら──『森の魔女』と」

 「「「…………」」」

 

 女の顔と異名を聞いた者達が固まった。

 妙な間であるが、それは消して驚きのあまり絶句してしまったとかでは無いようで。

 

 誰か知ってる人いる……? とお互いに顔を見合わせている感じの間であった。

 

 「すまないが……どちら様?」

 「そう。邪魔したわね」

 

 女はフードを被り直し、サッと踵を返した。

 逃げ帰ろうとする女を小さな男はグイグイ引っ張り引き止める。

 

 「ちょっと待ってください先生! 立ち去りたい気持ちは分かりますがっ、せっかく大勢いるんですから聞き込みしないと!」

 

 男の説得に応じず外に出ようとする森の魔女であったが、突如、地響きが起きた。反射的に女は自分の腹をさする。

 

 どうやら女のお腹から鳴っていたようだ。

 

 「……わかります先生。ユールに来るまでろくな物食べてないですもんね……」

 

 男はお腹が空いているのだと気づき、流し目でフォローをいれる。そこへ丁度よく、カレーを運んできた薫と女主人デネントが厨房から現れた。

 

 小さな男は薫を見て一瞬目を細める。そして、眉が弾むほど目を大きく見開いた。

 

 「カオリ……? やっぱりカオリだ! お久しぶりです! まだこの街にいたんですね!」

 「……どちらさまですか?」

 「あっ、えっと」

 

 男が慌ててフードを脱いだ。

 顔立ちからしてまだ少年であることが伺える。

 

 「ボクですよボク! クローフ・ドゥスです。竜のペリーを助けてもらったあの冴えないヤツですよ。覚えてませんか?」

 「クローフ……あっ、クローフくん!? 見ない間にずいぶん成長したのね。ペリーちゃんはどうしたの?」

 「ペリーには怪しい人が来ないように外で見張ってもらってます」

 「それじゃ貴方は……」

 「お久しぶりね。エビトウカオリ」

 

 薫に気付かれた女は何故か得意げにフードを脱いだ。

 

 「カオリ、二人共アンタの知り合いかい?」

 「はい」

 

 デネントに聞かれた薫は二人が何者かについて説明を始めた。

 

 一人は、とある森の奥地に住む変わり者の研究者。『森の魔女』と呼ばれる女性。

 もう一人は竜種の中でも希少種とされる“粛征(しゅくせい)竜ペリー”と共に暮らす少年。

 そんな彼らとは長期クエスト中に出会った経緯などを話した。

 

 二人が怪しい者でないと周囲が認識した後、薫は二人を空いている席に案内した。そこからちょっとした思い出話や近状を語り合いカレーを振る舞った。あの一件以来、クローフは魔女の庵に入り浸り魔女を先生として慕っているそうだ。

 

 久々のご馳走を満足気に平らげた二人に、重鎮の一人から質問が飛んだ。

 

 「して、何しにこの街を訪れたのだ」

 「観光……もウソじゃないのだけど、それは二の次。簡潔に言ってしまうと、イザナイダケの調査に来たの」

 「調査……? 魔女の観点から気になることでもあったのかぁ?」

 

 その男はジョークでも言っている風に軽く蔑みながら訊いた。

 

 「魔女なんてのは名ばかりよ。私はただ、研究者としてこの街に訪れた。それだけのことよ」

 「先生はイザナイダケによる幻覚作用が人間以外の種族にどう影響するのかを調べようとしていたんです。ですよね先生」

 

 クローフの補足に先生は小さく顎を引く。

 

 「まあ、結果としては最悪のタイミングで来てしまったようだけど……。五賜卿と戦うのであれば、一研究者として協力は惜しまないであげるわ」

 

 若干の上から目線ではあるが “協力” という言葉にギルドマスターのオウルデルタ・バスタードが反応する。

 

 「そりゃあ丁度いい。手段は多いに越したことはないからな」

 

 あえて魔女と蔑んだ男が反論する。

 

 「待て、部外者に作戦内容まで話す気か」

 「カオリさんの知り合いなら問題ないだろう。それにもしもの時の作戦も考えなきゃならんしな」

 「フンッ、勝手にしろ」

 

 バスタードは二人に戦況や遂行中の作戦内容を伝え始めた。内容に夢中な二人をよそにレクムとエナムが空いた皿を片付ける。

 エナムはこっそり兄に耳打ちをする。

 

 「兄さん、あの子ってボク達とほとんど変わらないように見えるけど、スゴい人なのかな……?」

 「さぁな。気になんなら聞いてみたらどうだ」

 「うん。でも、なんか話かけづらいと言うか……」

 

 モジモジするエナムを見て、こうなる事が分かっていたかのようにレクムは溜息をついた。

 

 「なぁ、お前、クローフって言うんだろう?」

 「ああ、うん。そうだけど、何かよう?」

 「オレはレクム。でコイツがエナム」

 

 レクムが近付こうとしないエナムを引き寄せる。

 

 「エ、エナムです……。はじめまして」

 「んで、エナムがお前に聞きたいことあんだとよ」

 「何かなエナムちゃん」

 

 クローフは勘違いをしていた。

 エナムの容姿や仕草のせいではあるが、完全に女の子だと。

 

 「あー……エナムはナヨナヨしてるから間違われやすいんだけど、こう見えて実はおと」

 

 

 ガシャンッ──!!

 

 

 その時、何かが割れる音が響いた。

 

 音がしたのは厨房の方からだ。

 デネントが厨房に向かい薫を見た。

 

 「カオリ、アンタ大丈夫かい?」

 

 薫は皿を落として割っていた。

 この異世界に来てから一度もなかった類いの失敗。

 それを本人もよく自覚しているのか、みるみる顔が青ざめていく。

 動けなくなっていた薫の代わりに、デネントは破片を集めて片付ける。

 

 「すいません……」

 「無理そうならベッドくらい貸してやるから横になんな?」

 「いえ……私は、大丈夫です」

 「ホント無理はやめんだよ」

 

 デネントには薫が無理をしているように見えた。

 しかし薫は無理などしていない、青ざめていたのは普段はしないミスで不吉な感覚に苛まれていたからだ。

 

 何かが起きる……あるいは既に起きてしまっている。そんな悪い予感──。

 

 「大変だぁーーー!!」

 「ペイィィーーー!!」

 

 保安兵が一人、店に勢い良く駆け込んで来た。それとほぼ同時に両翼を持つ小さな竜が忙しなく羽をばたつかせながら入店する。

 

 「な、なにごとだ!」

 「砂嵐が……大砂嵐が来ますっ!」

 「な、なに!?」

 「このタイミングでかよ……」

 

 バスタードは頭を抱えた。

 

 一目散にクローフの元にやって来たペリーは一生懸命何かを伝える。それが何か分かったクローフは落ち着かせながら話を聞く。

 

 「そうか、ありがとうペリー。──砂嵐は北の方角から迫って来てるようです。それも、かなり大きなヤツが」

 「そそ、それって作戦にかなり支障をきたすんじゃ……」

 

 周りの雰囲気から察した中島が声を震わせ言うと、重鎮達は冷静に発言する。


 「年に数回あるかないかの大砂嵐がよりによって今来ようとは」

 「嵐が過ぎるのを待つか?」

 「砂嵐の後は大雨も降りやすい。これでは作戦そのものを中止せざるを得ないであろうな」

 

 雰囲気は最悪なのものとなった。

 


 

─────────────


 ---珖代視点---

 

 

 

 「おい、ウソだろ……」

 

 目的のポイントまであと少しという地点で、俺はそれに気付いてしまった。

 

 暗闇。

 巨大な積乱雲のように発達した大きな暗闇が、地上も空もゆっくり呑みこみながらこちらに向かって来ている。

 

 間違いない。あれは砂嵐だ。

 

 今までに何度も砂嵐が来ることはあって、この辺りじゃさほどは珍しくない。しかしこれほどの規模のモノは経験したことが無い。

 

 デカすぎてゆっくりに見えるが、あと十もしないうちに荒野が砂で覆われてしまうのは確実に分かる。

 

 急げば間に合うか?

 

 「いや、無理だ」

 

 砂嵐が来れば二メートル先の視界すら奪われる。

 勇者の位置どころか、アルデンテの位置ですら把握出来なくなるだろう。このままだと合図なんて送りようがない。

 

 ──ここは勇者の負担も考えて一旦戻るべきか?

 いや、でも勝手に戻るのはだめだろ。

 

 困った時は〘選好の鐘〙だ。

 これで誰かを呼ぼう。

 

 確実に呼べるのはかなみちゃん。一応鳴らしたが、忙しいのかなかなか来ない。

 だったらレクムに残っている人達にこの事実を伝えよう。師匠辺りが鐘の音の意味に気付いてくれるだろうし、とりあえずレクムに残る全員を意識して鳴らす。

 

 意識を集中させて、レクムに残った面々を思い出す。そして鐘を思い切り振って鳴らした。


 カランカランカラン! カランカランカラン!


 今出来ることはこのくらいだ。あとは目標ポイントで砂嵐が過ぎるのをただひたすら待つしかない。

 

 時間稼ぎをしているリズにはまだまだ負担を掛けてしまうことになるが、アイツなら無事だと信じるしかない。

 

 ──頼むリズ、お前なら余裕で時間を稼げるよな……?

 

 


──────────────


 ---別視点---

 

 

 

 「かすった。かすったかすったかすったかすったかすったぁぁ!!」

 

 強力な毒の影響により、原型をとどめていないアルデンテの黒剣が遂にリズニアの腕を掠めた。

 その事実にアルデンテは狂ったような笑顔を魅せる。


 「はぁ、はぁ、はぁ……」


 少女は油断などしていない。常に気を張っていた。

 剣技では明らかに上回り、アルデンテが不死身でなければ五回は倒していたことだろう。それでも長時間の戦いの中でリズニアはたった一撃を浴びてしまったのだ。

 

 避ける事が出来た一撃。

 それだけにリズニアは顔を(しか)めた。

 

 「毒が全身に廻るまでおよそ十五分! そうなれば治しようがない! どーしようも無くなるんだ! あー、でもキミの仲間が助けに来るなら、ワンチャン可能性はあるネ。まあ、砂嵐が過ぎる頃には器も魂もボクの物になるけどネ!」

 

 アルデンテはそう告げると屍兵を召喚し、黒剣を新しい物と入れ替えた。

 

 「嬉しいヨ。新しいオモチャを手に入れた気分だ。キミの心も身体も、使い潰してしまわないように丁寧に慎重に楽しんで扱わなきゃネ……」

 

 アルデンテはその両手に二本の黒剣を携えた。それはまるで、リズニアの剣技を真似るかの如き振る舞い。

 

 「砂嵐が過ぎ去るのが先か、仲間が助けに来るのが先か。この十分にキミの運命は委ねられた。さぁ、余生を楽しもうカ」

 

 

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